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第十一話 『さて、それでは勇者の闘争という奴を見せてやろうか(下)』


 男は何度も「ありがとう、ありがとう」と言うと「役目は果たせたので俺は引退して仲間を弔って生きていく」と言い残して部屋を出ていった。

 俺は『立派だったな』こう思いながら男を見送った。

「さて、本題に入ろう。 よって、オーガの数は未定だ。 先に述べたように、今回は特別に無制限レイドでの募集となった訳だが、集まってくれて申し訳ないが、この依頼は保留とさせてもらう」

「どうしてです!」

 おっと、俺がそう言う前にシルに先を越されちまった。彼女も憤っていた。両目に涙を一杯に貯めて、それでも泣かない様に頑張っていた。

「応募が二人だけだからだよ。 彼らは五人組だった。 それで歯が立たなかったのだ。 私は部下に『死んで来い』なんて言うことは出来ないんだよ。 それに『保留』と言ったんだ。 掲示そのものは文面を書き換えて続ける。 そして、今出払っている冒険者の帰りを待ち、再度募集を掛けるつもりだ。 それでも無理な様なら軍隊の派遣を依頼する事も視野に入れているよ。 お嬢さん、これで分かってくれたかね?」

「ちょっと待ってもらっていいですか?」

 実に大人な判断だと思う。だがね、ここには子供がいるんだ。ちょープリティーなとびっきりの幼女がね!

「えとえと、ケネスさんのお話はよーく分かります。 ですが、村の事も心配ですよね? そこで、こういのはどうでしょう。 わたし達も『ゴールド』級です。 彼らに引けを取りません。 ですから、わたし達が先行して威力偵察をするってのはどうでしょう?」

 あの男の話に義憤を感じてやる気マックスな俺はできるだけ冷静に、軽い感じでそう提案する。まあ、もう地図は見た。却下されたとしても勝手に行ってくるがね!

「威力偵察とな?」

「そうです。 こういう言い方しちゃうと、ちょっと物騒ですが。 無理は決してしないと約束します。 無理そうであれば単純に偵察で済ませて後続の到着を待ちます。 んー、どの道、現場の情報はできるだけ正確な方がいいと思いますし……どうでしょう?」

「決して無理はしないと約束できるのだね?」

 ケネスは両腕を組んでしばらく考えていたがやがて、こう問いた。俺はすかさず明るい声で「はい!」と答える。

「ならば許可しよう。 しつこいようだが無理だけはしないでくれよ?」

「アンリちゃん、大好きですぅ!」

「わたしもシルお姉ちゃん大好き!」

 そう言って二人は抱き合うのだ。


 こうして、二人だけのレイド戦が始まった。



「さてと……。 十体くらいかな?」

「分かりますか?」

「うん」

 村の近くまで来ると俺は気配を探った。彼の残した地図に書き込まれているのとほぼ同じ配置。明らかに違和感があった。数が多すぎるのだ。かと言って魔物の大集団が魔界から移動してきたと言うのであれば何らかの目撃情報が上がるはずだ。やはり、坑道に何か秘密があるのだろう。

「まずは村の掃除をして、それからやりたい事があるの」

「あ、私も()()思いました」

 シルはもうすっかり俺の相棒の様だった。俺たちは顔を見合わせて『フフフ』とほほ笑んだ後に、キリっとした顔に同時に戻った。

 だが、まだ完全ではなかった。シルからみた俺は『何か凄く強い』くらいでいい。分かる必要はない。と言うか理解しきれないだろう。

 しかし、俺はシルの強さをきちんと把握しておく必要がある。でないと俺の慢心で彼女を失う事になりかねない。

 まあ、こんな事を言っても、それには時間が必要だったし、今回はその第一歩だってだけの話だ。

「わたしは今回、一体だけお姉ちゃんに流します。 それを何とか倒してください」

 俺の見立てでは二、三体のオーガなら問題ないはずだ。取りあえず一体で試してみる。

「私も戦わないとダメですか?」

「寄生虫だと思われてもいいなら、わたしが全部やるよ?」

「うぅ……、アンリちゃん厳しいですぅ」

 俺はエヘヘと笑うと目標を定める。まずは今見えている、あの四体でいいだろう。

 さあ、戦闘開始だ!


 俺は『マジックミサイル』を二本だけ作り出し、群れに向かって放つ。そして生き残った二体がこちらに向かってくると、タンっと勢いよく地面を蹴ると片方を抜刀術の要領で切り伏せるとそのまま駆け抜けた。

「『プッシュ』」

 そして、振り返ると魔法で残りのオーガをシルに押し付ける。

 態勢を崩しつつもオーガは彼女を倒そうと手に持つ棍棒を今正に振り下ろそうとしたのだ。

「わわわ、アンリちゃん、ちょっと……準備する時間位は下さいよぅ」

 彼女は泣きごとを言いながら素早く何かを呟くと、オーガの攻撃は何か目に見えない壁の様なものに弾かれる。

「私、実戦って久しぶりなんですよね……」

 そして、困ったような顔でそんな事を呟くと不自然な態勢でバックジャンプをした。何と言うか……、大地を蹴るって感じではなく後ろに滑るって感じだ。

「お姉ちゃん、がんばって!」

「がんばりますよ!」

 彼女は上唇をペロリと舐めるとその場で剣を振るった。

 剣の間合いではなかった。当然、届くはずのない剣戟はどういう訳かオーガの胸を袈裟切りにした。

「BANG!」

 再び彼女は更に後ろに滑ると親指を開き人差し指を敵に向けるとそう叫ぶ。何かがオーガの心臓を貫いた。

「やりました!」

「やったー!」

 そして、ドスンとオーガが地面に倒れ込むと俺たちは喜びの声を上げた。

 ふむ、精霊術って中々に興味深いな。


「では、こんな感じで、ちゃっちゃとお掃除しちゃいましょう!」

「おー!」

 彼女はまだまだ行けそうだな。さて、次の機会にどんな敵で試してやろう。上機嫌の俺はこんな事を思いながら坑道のある方角にまばらに散開している残り六体に向かって歩き出した。

「アンリちゃん、どうしました?」

 目的のものを探しながらの移動。やがて、俺は気が付いてしまったのだ。


――まあ、オーガだもの。そりゃそうだよな。

 俺の中の熱が急激に冷めていくのを感じつつそんな事を考える。

 坑道に近づくにつれて武器や防具が打ち捨てられているのを発見してしまったのだ。数は四つ。

 つまり中身は喰われた!

「気が変わった」

「え?」

 俺は六体のほぼ中央に転移する。

「『オーラセイバー』」

 俺は剣を抜くと魔法を発動した。フルパワーで発現したそれは正直、不格好だった。やたらと細い光を放つ大剣。この表現が適切であろう。

 オーガたちは俺の出現を感知すると、叫び声を上げながら俺に迫る。

 俺は腰を落としてタイミングを計る。

 そして、その時が来ると地面が陥没する位、力強く踏み込むと一回転する。

 奴らは両断された。

「シルお姉ちゃん、方針を変えたいと思います」

「アンリちゃん?」

「わたしは一人で坑道に入ります。 お姉ちゃんは遺留品を集めつつ周囲を警戒していてください」

「アンリちゃん、私ってそんなに足手まといなのですか?」

「違うよ。 そうじゃない……」

 俺は振り返った。それを見たシルは「納得……、納得はしませんよ。 でも……、無理はしないでくださいね」そう言ってくれた。

 何故なら今の俺は今にも泣き出しそうな、それでいて何の感情もない。そんな顔をしていたのだから。


 俺はシルに「ありがとう」そうとだけ言うと坑道の入り口に転移をする。

「『ライトニングボルト』」

 俺は両手を穴に向かって突き出すと入り口付近で屯っているオーガ達を巻き込んだゴン太ビームを放った。


――ああ、全く弱い体だ……。

 軽い眩暈を感じた。勢いに任せて魔法を連発した結果だった。省エネを心がけて進もう。その方が憂さ晴らしになる。

 大魔法を使って、跡形もなくここを消し去る事も出来たが、ここは廃坑じゃない。破壊するわけにもいかなかった。

「痛かったろうな……。 苦しかったろうな……」

 俺は呟いた。

「無念だったろうな……」

 止めどなく、この表現がぴったりだった。あの男が俺たちに教えてくれたようにオーガたちは次々と俺に向かってくるのだ。

 俺は迷わず、そこには慈悲など無く、淡々とそれらを切り伏せて進んだ。

 まるで相手にならない。俺の体に触れる前に――いや、奴らが俺を倒さんと武器を振りかぶる、その前に俺は奴らの体を切り裂いていった。

 恐怖すら感じる事なく滅ぶ絶望を知れ。

「お前たちの無念は、その全てを勇者アンリが引き受けてやる」

 戦闘マシーンと化した今の俺をシルには見られたくなかった。あの朗らかで優しいエルフに見せたくなかったのだ。

 そして、終点にたどり着くと俺は「成程な」と呟いた。

 禍々しい光を放つ魔法陣から全滅させたはずのオーガが現れたからだ。

「『パニッシュメント』」

 眩い光が魔法陣ごとオーガを消滅させた。

「お前を逃がさない。 必ず突き止めて消滅させてやる。 そうしないと彼らが安心して眠れないからな」

 全てが終わると、俺はここにはいない()()()に宣戦布告をした。


「お姉ちゃん、ただいま」

「終わったのですか?」

「うん!」

 俺は無理やり笑顔を作るとシルは何も言わなかった。

 遺留品は集め終わったようだ。俺達はそれらを持つと少し辺りを散策した。そして『ここら辺がいいかな?』なんて思うと俺はスコップを取り出して穴を掘り始めた。

「それくらい私にやらせてください」

 シルがそう言うと俺は無言でもう一本を差し出した。

 これくらいでいいか、と作業を終えると中に防具を入れてやり土を被せていった。そして、墓標代わりにと、四本の武器をその上に立ててやるのだ。

「『ホーリーライト』」

 温かな光が天へと伸びていった。

 俺たちは片膝を着くと祈りを捧げた。

「十分とは思えないけれども……、これで冒険者さん達も少しは天国への道を見つけやすいかな?」

 俺がそう言うとシルは俺を抱きしめて泣いた。


 俺たちはワンワンと泣きじゃくった。疲れ果てて涙が枯れてしまうまで……。



「たのもー! 何か楽し気な依頼はごさらんか? ……お! オーガ大量発生とな!?」

 少女は忙しなかった。ギルドに入るや否や、そんな事を言いながら辺りをキョロキョロと見回すと掲示板の一際大きい依頼書を見つけ、嬉しそうな笑みを浮かべたのだ。

「よく見てみろよ。 それはもう完了しているぜ。 なんでも、ここのギルド始まって以来の偉業だって事でしばらく掲示しているらしい」

 テーブルでくつろいでいた親切な冒険者がそう教えてやると少女は「なんとも、残念でござる!」などとオーバーなリアクションを取った。

「なんでも、二人組の冒険者が終わらせちまったらしい」

「二人組? レイド募集のようでござるが?」

「ああ、俺はその時、別の依頼でいなかったんだけどな。 手を上げたのがその二人だけだったらしい。 えーと、確かエルフの少女と小さな女の子だったっけか?」

 男がカウンターの方を振り返って、そう尋ねると受付嬢が「アンリちゃんとシルさんの二人組です」と、肯定する。

「それにしても()()()()()()()すげえんだな。 ゴールド五人組が失敗しちまった依頼を完了させるんだからな」

「おお! それは素晴らしいでござる。 是非ともお手合わせ願いたいものだ」

 そう言って目を輝かせる少女に「ん? お前……もしかして『狂犬』カスミか?」などと彼は顔をしかめた。

「確かに拙者はカスミと申すが『狂犬』などと失敬な!」

 そう言って非難をしたが彼女は満更ではない顔をしていた。名が売れていた事が嬉しかったのだろう。

「受付嬢殿! そのエルフ殿はどこにいるかご存じでござるか?」

「あの方たちは既に旅立っています。 えーと、確か……、辺境伯の町に用事があるとか言ってたような……」

「心得た!」

 そう言って少女は勢いよく飛び出していった。


 少女の名はカスミ。最強を目指して武者修行の旅をしている。



登場人物

アンリ……本編主人公の十一歳の幼女。一人称視点では前世の男のまんまなのだがしゃべる時は猫を被る。全盛期の時の五分の一程度の強さらしいが、それでも規格外に強い。


シル……金髪サラサラロングの巨乳のエルフ。見た目は十六歳程度。頭が少し弱い。メインの仕事は解説役。

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