楽しく散歩しながら、遠征です②
トリツィアは魔神の元へと向かう最中もどこまでもマイペースである。
マオのことを元気に散歩させ、先行して襲い掛かってくる魔物のことを対応し、それ以外の時間は馬車の中で大人しく本を読んでいたり、楽しそうに過ごしている。
能天気な様子を見せているトリツィアのことを、やはり同行している者たちは面白くなさそうに見ている。無能な下級巫女が無理やり、もしくは何らかのコネでついてきていると思われているのかもしれない。
トリツィアはそういう視線のこともあまり気にしない。周りからどういう目で見られても特にどうでもいいと思っている様子だ。
「ふんふんふ~ん」
夜の時間。夕食をとり終えた後にトリツィアは鼻歌を歌いながら野営地をぶらぶらしている。
巫女姫がいるため、基本的に街に泊まるようにしているが泊まれない場合もある。そういう場合はこうして野営をしているわけである。
トリツィアは火を熾したり、夕飯づくりなどは手伝っている。しかしそれは周りからしてみれば誰でも出来ることなので、彼らからしてみれば「本当にどうしてこの下級巫女はこの旅に同行しているのだろう?」と不思議で仕方がない様子だ。
「あ」
鼻歌を歌いながら楽しそうにしていたトリツィアが突然声をあげる。
声をあげたトリツィアを周りは特に気にも留めない。トリツィアはそのまま巫女姫の元へ向かおうとする。
「夜に巫女姫様の元へなぜ行こうとするのですか? 通しませんよ」
トリツィアのことを一人の神官が止める。夜も深くなってきた頃に巫女姫の元へ行こうとするトリツィアを警戒してのことだろう。
「巫女姫様に用事があります!」
「……何の用事ですか?」
「んー。巫女姫様に相談したいです」
少し悩んだ様子を見せて、だけど巫女姫に直接言いたいのかトリツィアはそんな返答をする。
そんなトリツィアの反応にその女性神官は顔をこわばらせる。やはりよからぬことをしようとしているのではないかと、そんな心情のようだ。
「どういう手を使ったかわかりませんが、心優しい巫女姫様のご厚意に甘えて我儘を言うつもりでしょう。巫女姫様は魔神への対応をするという神からの使命を全うするためにお忙しいのです! 通しませんよ」
「んー? えっとねー、そもそも私が此処にいるのって巫女姫様からお誘いがあったからなんですよねー。まぁ、貴方は信じないかもしれないですけど! あと私は夜に邪魔をするとかじゃなくて伝えたいことがあったので伝えようかなーって」
軽い調子でトリツィアがそういうと、女性神官は何とも言えない表情を浮かべる。
トリツィアは全く持って無害な笑みを浮かべている。その無邪気な笑みを見ると、ちょっと拍子抜けしてしまうものである。
「巫女姫様に、盗賊いるから退治してきまーすって伝えてもらっていいです? 多分、この野営地狙われているのでとっちめてきます!」
「え? と、盗賊?」
「はい! なので、いってきまーすって言いたくてちょっときたんです。会わせてもらえないならそれはそれなので、じゃ」
「え、ちょっと、本当のことですか? 貴方に何が――」
女性神官はトリツィアのその言葉に動揺した様子を見せる。
盗賊などという物騒な単語が聞こえてきただけでも驚きなのに、トリツィアのような可愛らしい少女が盗賊退治に行くなどと言っているのだ。
もう驚きと混乱しかない。
しかしトリツィアはその制止の言葉もきかずに歩き出してしまった。
「オノファノ、マオ、行くよー。この野営地狙われているからとっちめるよ!」
「ああ」
「わふぅ」
トリツィアの元気な言葉に、オノファノとマオが答える。
「それにしても護衛たち全然気づいてないな。魔神の元へたどり着く前に全滅しそう」
「オノファノ、それは騎士たちを見くびりすぎじゃない? 流石にもっと近づいたら気づくと思うよ。それに犠牲は出るかもだけどちゃんと対応は出来るんじゃないって思ってる! でも犠牲出たら巫女姫様悲しみそうだし、気づいたからにはとっちめちゃおう!」
「まぁ、そうだな。それで捕まえたら周りのトリツィアを見る目ももっと変わるだろう」
オノファノとしてみれば、トリツィアが面白くなさそうに見られていることがまず気に食わない。
トリツィアは巫女姫の要請にこたえてこの場にいるのだ。それなのにこういう目で見られる筋合いはない。
トリツィア本人は気にしていなくても、オノファノはトリツィアのことが大切なのでそういうのは嫌なのである。
そういう会話をかわした後、トリツィアたちは盗賊退治に向かった。
盗賊たちは、野営地を目指して歩いている。その盗賊たちは失敗することをまず考えていない。
今日はどれだけの収穫が出来るだろうか……そんな妄想にふけっている時、彼らに衝撃が訪れる。
「発見! 行くよー」
楽しそうに笑うトリツィアの声を号令に、トリツィア、オノファノ、マオが盗賊たちに襲い掛かった。
彼らにとってみれば、何が起こったか分からない。
愛らしい藍色の髪の少女と、赤髪の少年、そして犬の姿をした何か。
それに襲い掛かられ、一瞬で彼らは全滅した。




