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下級巫女です!!  作者: 池中織奈


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魔神がやってくるようです ①




「ふんふんふ~ん」


 トリツィアは楽し気に鼻歌を歌いながらペット――魔王であるマオの散歩をしている。

 マオはすっかりペット生活に慣れているのか、すっかりされるがままである。



 トリツィアが大神殿の敷地内でマオを散歩させるのは、最近はよく見られる光景である。

 ちなみに散歩に関してはオノファノも時折トリツィアに頼まれてやっている。仮にもマオは魔王であるので、他の神官たちには散歩をさせないようにしているようだ。


 とはいえ、マオはすっかりトリツィアとオノファノに服従しているので大神殿に仕えるものたちに危害を加える気は全くないが。



 トリツィアは中々ハイスピードで散歩を行っている。多分、普通のペットならばそれについていくことが出来ずにバテてしまうことだろう。

 しかしそこは相手がマオなので、そのあたりの心配はない。そういう点においてもマオは普通のペットとは違うわけだが、この大神殿の者たちときたら「トリツィアのペットだから少しぐらいおかしくてもそういうものだろう」と受け入れている。


 人はあまりにも理解が出来ない存在を長年見続けていると、そんな風に達観していくものである。




「マオ、運動が足りなくなったらいってね。暴れる前にいうんだよ?」

「……わん」

「ふふっ、いい子。悪いことをしたら躾けるからね」

「わん」



 周りに人の目があるからと、鳴き声をわざわざ発するマオ。これが魔王だなんて言っても信じる者はいないだろう。


 トリツィアに頭を撫でられて気持ちよさそうにしているマオはすっかり飼いならされたペットである。



 トリツィアはマオをペットにしてからも今までと変わらない生活をただ送っている。自分にとって意に沿わないことをしてくる相手はこの前の裏組織のように徹底的に対応しているが、そういうことがなければトリツィアは当たり前の下級巫女としてのびのびと過ごしているだけである。


 雑用をこなし、神へと祈り――そういう何気ない日々。そういう穏やかな日々のことをトリツィアは好ましく思っているので、毎日楽しそうである。


 マオはこれだけ力があるのに、そういう日々を好むのは訳が分からないと思っているものの、それが自分のご主人様なのだと理解しているので何も言わない。あと何か意見を言うとトリツィアもオノファノも怖いのである。





 トリツィアがマオを連れまわす散歩コースには、あの邪神が封印されている石碑の周りも含まれている。マオはその石碑を見る度に、自分も一歩間違えれば同じように放り込まれてしまったのだろうとぞっとしている。

 魔王であるマオには、そこに強大な力のある何かが封印されていることが分かっているのである。それでいてその存在が、日に日に力をほんの少しずつだけど低下させていることも。



 トリツィアの手によって封じ込められているその邪神は、日に日に弱っていく中で自由もきかずにきっと絶望していることだろう。



 邪神を封印したなどという偉業を成した――にもかかわらずトリツィアはそのことをまるで日常の中で片手間に行ったこととしか認識をしていない。マオはその封印されている石碑を見ていると、邪神の悲哀が伝わってくる気持ちになっている。



「ん? マオ、どうしたの? 石碑が気になる? まぁ、マオと似たようなものだもんねぇ」

「……わぅ」


 似たようなものではない。魔王よりも邪神の方が格が上である。なんせ、神という名のつく化け物だ。

 それを魔王と同一視するのはトリツィアぐらいしかしないだろう。




「今の私なら邪神もペットに出来るかもね! まぁ、マオがいるし、別に封印解く必要性もないからとかないけど」

「わぅ」



 邪神でさえもペットに出来るかも……などと恐ろしいことを口にするトリツィア。しかし本当にそれさえもトリツィアにとっては簡単に出来ることなのだろう。それが分かっているのでマオは突っ込まない。


 トリツィアとオノファノときたらいつも普通とは違う言動ばかりしているので、いちいち反応していても仕方がないとマオも理解しているのである。




「マオぐらい丈夫で色々連れまわせるならペット増やしてもいいけれど、どうせなら飛べたりする方がいいのかなぁ? ちなみにマオって飛べるの?」

「わん!」

「飛べるんだ。それはそれで面白そう。今度遠征に出かけるときはマオも連れていくからね」

「……わぅ」


 大神殿の外に連れだしてもらえることに関しては喜ばしいことであるが、トリツィアに連れまわされるとなると何か起こりそうだなとマオは遠い目である。


 マオは魔王なので少しのことでは動じない自信があるが、トリツィアはおかしすぎる。



 ――なんだか、トリツィアはまたおかしなものをひきつけそうな気がする。


 マオがそう思っていた予感は、あたっていたと言えるだろう。

 そんな散歩をして少し経った頃、巫女姫から至急の手紙が届いたから。






 


 

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