暗殺者に狙われているようです。⑧
「邪魔だなぁ、この人たち。私このあたりの魔力をどうにかしたいから、さっさとこの人たち黙らせたいんだけど」
トリツィアは少しめんどくさそうにそんなことを言う。
目の前には裏組織の構成員たちの姿がある。トリツィアたちの異常性に、彼らは怯えた様子を見せている。
しかし裏組織の構成員としてのプライドがあるのだろうか。彼らはトリツィアたちになんとか向かって来ようとする。
――トリツィアは、そういうプライドとかをあまり理解出来ない。
かなわない相手にわざわざ向かってくるなんてするべきではないとそんな風にトリツィアは少なくとも思っている。
トリツィアは別に目の前にいる裏組織の構成員たちを根絶やしにしようとしているわけではなく、ただ睡眠妨害をしてこないように頼みたいだけである。本当にそれだけであるトリツィアに対してプライドという訳の分からないもので向かってくるのはなんだろうとなってしまう。
世の中命があってのものである。命を失えばそこでその人生は終わりを告げる。
「ご主人様、なぜこ奴らを殺しては駄目なんだ」
「殺す必要性も感じないから。マオはそんなに誰かを殺したいとか、そういう衝動で溢れているの? それなら教育しなきゃだけど」
「そんなわけないだろう! 我はご主人様に従順なペットだ! だから、教育はやめてほしい!!」
マオはトリツィアに必死でそんな懇願をする。その姿は全く持って魔王などという人を恐怖に陥らせる存在には見えない。
ちなみに魔物にしか見えないマオがそんな風に喋っているのもまた裏組織のものたちを恐怖に陥らせていた。人は未知の存在に対して恐怖を抱くものである。
「トリツィア、とりあえずここのトップ捕まえてきて話付けた方が早いか?」
「んー、そうかも。全員ぶちのめしてからだとちょっと面倒だよねぇ。なんか次から次へとわいてくるし」
オノファノの問いかけにトリツィアは相変わらずのほほんとした様子で答える。
「おい、お前。ここの一番上の奴連れてこい」
「ひっ」
トリツィアからの言葉を聞いたオノファノは、向かってきた裏組織の構成員の一人を捕まえると、その頭をがしりと掴んで、身体を持ちあげる。そして脅しつけるようにそんなことを言う。
オノファノの言葉にびくりと身体を震わせるが、その男は答えない。答えない男はオノファノに投げつけられた。とはいっても戦闘職である構成員の命が失われるほどではない。
「……お姉さんたち、本当にぶっ飛んでいるなぁ。こんな場所に乗り込んでおいてこの調子かぁ」
裏組織への襲撃に参加しているシャルジュは、トリツィアたちの様子を見ながら余裕はそこまでない。『ウテナ』の中で戦える存在とはいえ、シャルジュは流石にこういう場所にやってくることは初めてである。
そもそも裏組織を睡眠を邪魔されないために……と、こうして襲撃するなどという思考が面白くて仕方がない。
そういう面白い存在と交流をもてることも面白くて、シャルジュはこんな状況だというのに楽しんでいる。
「よしっ、面倒だからちょっとやっちゃおう。オノファノ、マオ、あとその他も、一旦離れて!」
なかなか裏組織のトップの存在が出てこないので、トリツィアはしびれを切らしたらしい。
軽い調子で、楽しそうにそう言い切るとトリツィアは手をかざす。
その場に結界を張ると、せっせとその場の魔力を整え始めた。
……魔力を先に整えることを優先した模様である。そういうわけでトリツィアは結界の中でのびのびと魔力流れを整え、おかしな力の流れをせっせと取り除いていく。それは組織のアジトへと流れ込み、様々なことに活用されていたので、それが全て解除される状態である。
かなり無理をして土地から魔力が吸い取られているので、その辺をせっせと綺麗にしていった。
ちなみに結界の前には立て看板を立てている。
『偉い人をよこしてください。交渉します。中々来ないようなら全部破壊します』とそんな物騒なことが書かれている立て看板である。
……ちなみに組織のアジト内では急に魔力の供給が亡くなったことに対して、またあわただしくなっていた。
結界で囲まれているトリツィアたちに彼らは近づくことさえもできない。
それでいて少しふざけている様子の立て看板に、アジトでの不具合。そのアジトは土地から吸い込んだ魔力を十分に使って成り立っていたので、魔物よけが通じなくなっていたり……と中々大変である。
トリツィアの張っている結界は、魔物たちも破れないので結界の外が大変なことになっていてもトリツィアはマイペースである。
「私がこの場所の責任者だ!! 交渉させてくれ!」
そうやって裏組織の責任者が出てきたのも当然の事と言えるだろう。
……いろいろな対応に追われていた責任者が出てきた時、結界の中のトリツィアたちは呑気に食事を取っていた。
その様子を見た責任者の男は意味が分からない気持ちになりながらも交渉のためにキリッとした顔をするのであった。




