女神様は、割と気軽に訪れる。③
「トリツィアは、最近なんか困ったこととかあったりしない? 大丈夫?」
「大丈夫ですよ。女神様。そもそも困ったことがあったら自分の手でどうにでもしますから」
「ふふ、トリツィアは強いわよねぇ。かっこいいわぁ」
「おほめいただきありがとうございます」
ソーニミアは、お気に入りであるトリツィアの様子をよく見ているけれども、常にその様子を見ているわけではない。なのでこうして話していると知らないことを知る事も出来る。それにただ見ているのと、実際に話を聞くのとでは、聞いている印象も違う。
ソーニミアは、トリツィアから実際に話を聞くのがとても好きなようだ。
トリツィアの作ったおつまみを食べながら、ソーニミアは酔っぱらって顔を赤くしてトリツィアを見ている。
「トリツィアは、恋はしないのー?」
「恋ですか? 今の所、考えていないですね。私は私のやりたいようにやるって決めているから、それを許してくれる人じゃないとダメだしねぇ。それに私は巫女としての責務を頑張りたいから」
「あら? 巫女が男を知ると力がなくなると言われているの気にしてたりする? そういう人は結婚して信仰心がなくなるからっていうのもあるわよ。でもトリツィアは大丈夫よ。貴方の力は年々強くなっているし、別に結婚した所で貴方が貴方のままでいるのならば、その力は貴方を裏切らないもの」
「そうなんですか?」
「ええ。トリツィアは、力が強くて色々おかしいもの。貴方は他の巫女の常識には、当てはまらないもの」
ソーニミアは、そんなことを言いながら楽しそうにビールを再度飲んでいる。
「私ね、トリツィアのことは大切なお友達だと思っているのよ! だからこそ、是非ともトリツィアが幸せになってくれたらいいなぁって思っているのよ」
「ありがとうございます。私は今でも十分幸せだけど、もっともっと幸せになるために全力を尽くすわよ」
「自信満々ねぇ。トリツィアは、決めたことをやるのを全くためらわないわよね」
「それは女神様もじゃない?」
「私は女神になりたての頃は、不安ばかりで躊躇いも多かったわよ」
「そうなんですか? 想像がつかないですね。でも私が私でいられるのは、女神様がいるからですよ。私は女神様の事を敬愛してますし、女神様が寄り添ってくれていると思うとなんでも出来る気になるから」
「そうなの? そういってもらえると嬉しいわね」
トリツィアは、飲んだくれの女神であろうともソーニミアという女神を敬愛している。
その敬愛と信仰の気持ちがあるからこそ、トリツィアはこのドーマ大神殿で、巫女として活動に励んでいると言える。
トリツィアは、望めば巫女以外の道だって選べた。だけれども他でもない巫女の道を選んだのは、過去に憧れた巫女の姿と、敬愛する女神様がいるからである。
「女神様、上級巫女は上流階級の男性と結婚の話が進んでいるみたいですよ」
「上級巫女は何だか集団婚活しているみたいよね。上級巫女の彼女たちのことも時々見ているけれど、皆逞しく、良い男を捕まえようとしていて楽しいのよね」
「彼女たちも、女神様に覗かれているって知ったら驚くでしょうね。まぁ、わざわざ言わないけど」
ソーニミアはトリツィアのことだけではなく、他の巫女たちのこともよく覗いている。もちろん、このドーマ大神殿の巫女だけはなく、他の神殿の巫女たちのことも見ている。
その中でトリツィアのことをよく見ているのは、トリツィアがソーニミアの声を聞けて、ソーニミアと友人として接している特異な巫女だからである。
まごう事なき女神様のお気に入り――そういう立場をトリツィアは持っている。
とはいえ、それを進んで周りに広めようとはしていないため、そんな事実を知っているものはあまりいないが。
「トリツィアも、婚活パーティーでも参加する?」
「いや、いいかなぁ。私は一生下級巫女として色んな場所を見て回ったりしたいし、そういう上級階級の人と結婚とかになったら籠の中の鳥みたいになるじゃないですか。私はそんなの嫌だから、比較的自由な立場の下級巫女の方がいいもの」
トリツィアはそう言って笑いながらジュースを飲み、用意している食べ物を口に含む。普段はこんな風に大量にご飯を食べることもないが、女神様との女子会はトリツィアは沢山飲んで食べる日と決めている。
「何だかトリツィアらしいわよねぇ。ねぇ、トリツィア。貴方が十六歳になったら一緒にお酒飲みましょうね。ビールもお勧めするわよ!」
「うん。楽しみにしている」
お酒が飲めるようになったら、一緒にお酒を飲もうなどとトリツィアと女神様は約束をする。
そうしてしばらく女子会は続いた。
「トリツィア、今日もソーニミアがお世話になったな。連れて帰る」
「はい。クドン様」
酔っ払っていたソーニミアは、その旦那である神様、クドンが連れて帰っていた。
そこまでが時々行う女子会でのいつもの流れである。




