女神様の生誕祭 ②
「ふんふふ~ん」
トリツィアは鼻歌を歌いながら雑用をこなしている。
トリツィアは女神様の生誕祭のために働くことも大好きである。なので、雑用だって喜んでこなす。
沢山の荷物を運ぶトリツィアの足取りは軽い。ちなみにその周りを精霊たちも楽しそうに飛んでおり、トリツィアは大変楽しそうである。
精霊たちも女神様の生誕祭をお祝いしようとここにやってくる。
女神様への誕生日プレゼントも精霊たちはトリツィアへと持ってくる。
女神様の生誕の日のトリツィアはいつもよりもずっと張り切っている。それでいて機嫌が良い。
誰かの、親しい人の誕生日をお祝いするというのはとても楽しいことなのである。
(私がお祝いをすると、女神様が本当に嬉しそうに笑ってくれるから――だから私は余計に女神様の誕生日をお祝いするのが好きなのかもしれない)
おめでとうと口にして、嬉しそうにされるとそれはもう嬉しいものである。
トリツィアは女神様が折角自分のために時間を割いてくれているのだから、思いっきりお祝いをしようとそんな気持ちでいっぱいである。
(毎年、一年で手に入れた私が良いと思ったものを色々集めたりしているんだよね。女神様は神様だけど、ただの人間である私と仲良くしてくれてるし、本当にありがたい限り)
ただの人間であるトリツィアの元へ、女神様がやってくるということは改めて奇跡のようなことで感謝をすべきことだとトリツィアは思っている。
女神様が仲良くしてくれることが嬉しく、毎年女神様の生誕の日は女神様に喜んでもらおうと色々準備しているのである。
生誕祭の日は、女神様にお祝いをしたい信者たちが駆けつけ、お供え物をする。
そういうお祝いの品を狙ってやってくる盗人もいないわけではない。
なんとも罰当たりな行動だが、そういう悪い人間は少なからずいるものである。
とはいえ、こういうお供え物はトリツィアのように直接女神様に渡すという例外的なことがなければ基本的にこういうものはお祈りと一緒に女神様にささげた後に配られるものだ。
女神様はお供えられたものは受け取っているが、実物は残るみたいな状況になる。
なのでそもそも盗まなくても配られるものなのだが……そういう品物を独占したいと考えている存在もいるのだ。
それらに関しては神殿騎士たちやトリツィア、あとは『ウテナ』の面々にも協力してもらって対応している。
またもう嫁いでしまったレッティからは直接女神様宛の品物がトリツィアの元へと届いていた。
レッティが嫁いでからもトリツィアとレッティの交流はそれなりに続いているのだ。
(女神様の生誕祭っていう、特別な日に悪いことをする人いなくなればいいのになぁ)
トリツィアはそんな風に思ってならない。
しかし悪いことを行う人はそれなりにいるもので、結局強制的にそれをどうにかすることは出来ない。
ちなみにドーマ大神殿の周辺では、比較的犯罪者の数は少ない方である。
それも毎年のようにトリツィアがそれらの人たちを見つけ次第とっちめっているからというのもあるだろう。
「トリツィア」
「オノファノ、どうしたの?」
「マオが退屈そうにしていた」
「んー、放置でいいんじゃない? あとで遊んであげればいいでしょ。手伝ってくれるっていうなら雑用任せるけど、流石にペットに手伝わせるのもあれだし」
マオは本日、トリツィアにもオノファノにも餌を与えられる時間以外は放置され、行動を制限されている状況である。
二人が時間に余裕がある時は散歩に出かけたり、遊んだり(戦ったり)しているわけだが、今日は完全に放っておかれている。
トリツィアもオノファノも大神殿に所属しているので、こういう日は忙しいのだ。
魔王であるマオからしてみれば、女神様の誕生日をそんな風に大々的に祝うのは意味が分からなかったりする。そもそもマオは魔王であり、誕生日をお祝いするような文化では育ってきていない。
誰かが生まれた日だからと祝うのはよく分からないものである。
そんなよく分からない日に余計な行動をしないようにと鎖でつながれているので、マオは大変退屈している。
「マオにも女神様の生誕祭をお祝いしてもらいたいなぁ」
「魔王が女神様のお祝いなんかするのか?」
「マオは魔王っていうより、私のペットなんだから女神様のお祝いするのは当然」
「……なんかそういうことばかりしていると完全に浄化かなんかされそうだよな」
「された方が世の中のためじゃない? 魔王のままよりそっちの方が絶対いいよ」
トリツィアはマオにも女神様のお祝いをさせようとしていた。
そんなことをするのは、魔王としての面子が丸つぶれだが……、トリツィアとしてみれば女神様をお祝いすることは良いことである。
夕方にトリツィアから「女神様へのお祝いをマオも捧げてね」と言われて拒否したが、結局トリツィアに屈して生まれて初めて女神様へお祝いをささげるという行為をすることになった。
マオは屈辱に満ちているが、トリツィアはにこにこしていた。




