ペットな魔王と下級巫女と、護衛騎士 ①
トリツィアは魔王のことをペットにした。
そのことは巫女姫にも伝えてある。ちなみにトリツィアからの手紙でそのことを伝えられた巫女姫は頭を抱えたものの、トリツィアが見ているのならば問題がないだろうと思ったようだ。
そのため巫女姫からの手紙では、「魔王のことをよろしくお願いします」と伝えられている。
「オノファノ、餌一緒にやろう」
「……どこから拾ってきたんだ? 明らかに雰囲気が普通じゃなさそうだけど」
「これ、魔王」
「魔王? あのなんか復活するってやつか?」
「うん。力の強い巫女を狙うってやってきたから、とっちめた」
「あー……、そうか。確かに歴史書では魔王は巫女を攫うって書いてあった気がする」
オノファノとトリツィアは、そんな会話を交わす。
オノファノは魔王という単語を聞いて驚いたものの、トリツィアだからと納得する。
「マオって名前をつけたの」
「そうか。でもこいつ何食べるんだ?」
「さぁ? お肉とか? 何が好きなんだろう」
「人間とか言い出したらどうする?」
「その時は躾けるから大丈夫。オノファノも一緒に躾けて欲しい。一応魔王だから、他の人だと躾難しいかも」
トリツィアは簡単にそう言い切る。
オノファノならば魔王の躾ぐらい問題なくこなすだろうと、そんな風に信頼しているようである。
(魔王をペットとして飼うなんて本当にそのあたりがトリツィアだよなぁ。それにしても魔王がトリツィアのことを狙っていたなんて……ちゃんとトリツィアに手を出さないように言っておかないと)
オノファノにとってトリツィアは大切な女の子である。
幾ら強くても、大切な幼馴染。その幼馴染に手を出そうとする人はオノファノは許せない。
「マオ、俺はオノファノ。よろしくな」
「……ああ」
「俺とトリツィアの前でなら喋るのは問題がないけれど、他の人の前では喋らない方がいいぞ」
笑っているけれど、目が笑っていない。
そんな様子のオノファノに、魔王――ペットのマオは何とも言えない気持ちになっている。
こうやってマオが喋っているのを簡単に受け入れているあたり、オノファノはマオが魔王であることを分かっているように見えた。
マオは目の前の男が何者なのだろうか、と訝し気に見る。
普通の男に見える。
けれども、トリツィアも普通の少女にしか見えないのにあれだけ異常だった。
ならば目の前の男――オノファノもそうなのだろうかと、思い至ったらしい。
「トリツィアを狙うなら、俺が相手になるからバカなことは考えるなよ」
「……魔王である我を相手に出来るとでも?」
「今はトリツィアのペットのマオで、魔王じゃないだろ。それに相手が誰だろうと俺は相手にする」
オノファノにとって、トリツィアに追いつくためだけに力をつけた。トリツィアの護衛騎士になりたかったから大神殿に所属している。
だから、相手が例えば魔王だったとしてもオノファノは引く気は全くなかった。
マオはこいつもあの巫女のように規格外なのだろうか……? などと一瞬頭をよぎったが、自分を相手に出来る存在がそうそういてたまるかとそんな気持ちになる。
だからマオはこいつにも好き勝手されてたまるかとばかりに、力をオノファノに向かって放った。
犬のような愛らしい見た目をした生物から、黒い靄があふれ出る様子は普通の人ならばおびえるに十分なものである。もちろん、マオもトリツィアが怖いので本当にオノファノをどうにかしようという気はなかった。
そんなことをして一生結界の中に閉じ込められたり、それこそ消滅させられてしまうのはごめんだった。
ただマオは魔王としてのプライドがあるので、トリツィアだけではなくオノファノにまでなめられたくないとそんな風に考えているのだ。
黒い靄を纏い、襲い掛かってこようとするマオ。
……オノファノはそれを見ても動じない。
眉一つ変えずに、オノファノは剣を抜いた。
全く動じないオノファノに、マオが面白くなさそうな顔をする。
(我が本気で手を出さないなどと思っているのか!! 全く馬鹿にされたものだ!)
マオはやっぱりその様子が気に食わなくて、殺さない程度にオノファノに襲い掛かった。
――しかし、地にひれ伏せているのはマオの方であった。
鞘から抜かれないままの長剣で、殴打された。
オノファノもトリツィアのペットであるマオを殺す気はないのであろう。手加減されたことに気づいたマオが面白くなさそうな表情をする。
そんなマオを、オノファノが冷たい目で見降ろしている。
そしてそのまま――マオはオノファノに躾をされた。
襲い掛かったマオは、オノファノに軽くいなされた。
結果としてオノファノをマオはどうにかすることは出来なかったわけである。
(……こんなものが二人もいるなんてこの大神殿はなんなんだ。我が全く手も足も出ないとは)
マオはすっかり自信が消失していた。




