下級巫女、出張に行く ⑬
「わー。見たことがない建物とか多いね。私は大神殿からあまり出ないから結構楽しいかも」
「トリツィアは、行こうと思えばどこでも行けそうだけど大神殿を嫌っているわけではないよな」
「うん。大神殿は居心地がいいからねー。たまにこうやってぶらぶら出張するのは楽しいけどね!!」
トリツィアとオノファノは、ムッタイア王国の隣国にやってきた。
その国は森に囲まれた国である。自然豊かで、神々の伝承もそれなりに残っている場所である。
ちなみにトリツィアは大神殿に引き取られる前は、家族と共にムッタイア王国以外を訪れたことはある。そこそこ裕福な平民の出ではあったので、幼い頃にそういう経験があるのだ。
「出張はそこそこ行きたいよね。色々見れるしさ。それにオノファノを連れていけばどこでも行き放題じゃない? ちょっと危険な場所でも行けそうだよね」
「まぁ、俺はトリツィアが行きたいならどこへでも付き合う」
「ふふっ、ありがとう。オノファノ。流石に巫女一人でぶらぶらするのは、神官長に怒られそうだしねー」
「トリツィアが一人で旅しても問題ない巫女だと世界に認知されたら問題なさそうだけど。トリツィアならそれぐらいできるだろうし」
「んー。それは面倒だから嫌かなぁってだってそうやって持ち上げられたら今みたいな生活は出来なさそうじゃん」
「まぁ、そうだな」
オノファノはトリツィアが有名な巫女になって、一人で旅をするというのもすぐに想像が出来た。やろうと思えばトリツィアはそういうことぐらいできる。
でももしそんな風に周りから一番力がある巫女だと認識されればされるほど、それだけ柵は増えるだろう。
――トリツィアはそういう柵を望んでいない。
「さて、今日は野宿でいい? 向こうの奥の方見に行きたいんだよね」
「大丈夫だ」
トリツィアは、入国してすぐに野宿を選択していた。
というのも国境からすぐ近くにある広大な森にも神の伝説が残っているからである。トリツィアとオノファノにとって野宿というのは特に問題がない。オノファノは出来れば宿の方がいいとは思っているが……、トリツィアが野宿を望むのならば致し方ないとは思っている。
そういうわけでトリツィアとオノファノは森の中へと足を踏み入れた。
特に準備もせずにずかずかと進んでいく二人は、危険な魔物も潜んでいる森の中だというのにも関わらず全く持って自然体であった。
「精霊の気配が結構していいね!!」
「そうか」
「うん。いっぱい、色々もらえるし」
その森の中は精霊の気配がトリツィア曰く多いらしい。オノファノには分からないが、トリツィアの周りに果物などがいつの間にか増えていたりするので精霊が持ってきているのであろう。
『向こうに聖獣がいるよ。トリツィアなら気に入られるはず』
『聖獣と仲良くしようよ、トリツィア』
そして精霊たちはトリツィアに向かってそんなことを告げていた。
トリツィアは聖獣の存在は知っているが、実際にその存在にはあったことがない。
聖獣とはその名の通り、聖なる獣である。神力を使いこなす、特別な獣。
一部ではそういう聖獣は神様のように崇められるので、ほとんど神に等しいものだと思える。
「オノファノ、聖獣様いるって、会いに行こう」
「トリツィアはいいかもしれないが、俺も会いにいっていいのか?」
「問題ないはず! そもそも向こうが会いたいと思っていなければ会うことは叶わないはずだから、大丈夫だよ。嫌だって思われるなら拒否されるだけだし」
トリツィアは軽い調子でそう言い切って、オノファノを連れて精霊たちについていった。
森の奥深くへと進んでいく。
その途中から、魔物の鳴き声が一切聞こえなくなった。
――森の中の雰囲気が、がらりと変わっているのがオノファノには分かった。
「トリツィア、雰囲気が変わった」
「うん。私たちは招かれたんだよ。このあたりはとてもきれいな神気が満ちているから。うん、とってもいいよ!!」
「そうなのか?」
「うん。すごく清廉な雰囲気の神気。それでいてとても力強い。此処にいる聖獣はとっても強い聖獣だと思う」
トリツィアは少し興奮した様子でオノファノにそんな説明をしていた。
とても綺麗で力強い神力の持ち主に会えると思うとワクワクして仕方がない様子だった。オノファノはトリツィアが嘘を言わないのは知っているので、「そうか」とだけいってずかずかと歩くトリツィアについていった。
『なんという、神力だ。お前は強い巫女だな』
――そして精霊たちに案内された先に、真っ白な鳥がいた。その大きさはトリツィアたちを丸呑みに出来るぐらい大きい。
威厳に満ちた声が脳に直接響く。オノファノは驚いた表情だが、トリツィアは平然としていた。
「初めまして。聖獣様。私はトリツィアです!!」
にっこりと笑ってトリツィアはそう挨拶した。




