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幼馴染の護衛騎士は、彼女より強くなりたい ②



 トリツィアという下級巫女は、色々と規格外で、彼女を知るものはまず彼女のことを「色々とおかしい」などと口にする。

 どうおかしいかと問いかけられれば、皆、口ごもる。正直言って、目は口ほどに物を言うという言葉通り、見た方が彼女のことが分かりやすい。彼女を一言で表すことは難しい。



 その規格外のトリツィアが神殿の外に出かける時に、護衛騎士として後ろに控えているのがオノファノである。



 基本的に上級巫女になればなるほど護衛の数は多くなるものだが、下級巫女であろうとも外に出る時は警備が厳重になる。けれどトリツィアが外に出る時の護衛はオノファノ一人であることも多い。

 ――それはトリツィアが下級巫女であるからというのもあるが、それだけではなくトリツィアについていけないからというのが大きい。



 そもそもの話、トリツィアについていける段階でオノファノも中々規格外であると言えるだろう。

 オノファノがトリツィアの護衛騎士が出来ているのは幼馴染であるからというよりも、彼の実力に起因する。幼馴染だったとしても、トリツィアについていけるだけの力がなければ彼はそもそも巫女の護衛騎士などという立場にはなれなかっただろうし、トリツィアの護衛騎士になれなかっただろう。




 オノファノの一日は、神殿の警備と鍛錬で終わる。

 護衛騎士の中には、次々と色んな巫女の護衛をするものもいるが、基本的にオノファノはトリツィアが神殿の外に行く時以外は、トリツィアのいるドーマ大神殿に居る。




 周りの者たちもそれを許しているのは、トリツィアの護衛騎士である彼をトリツィアの元へいさせようとしているからである。




「トリツィア」

「あら、オノファノ、おはよう」




 公の場では護衛騎士の立場であるというのもあり、オノファノはトリツィアに対して様付けをする。だけれども大神殿の中では、呼び捨てである。というのも、護衛騎士となった時に取り繕った対応をしたら「なんだか気持ち悪いわね。昔のようでいいわよ」なんて言われたからである。

 トリツィアは巫女という立場になっても驕らない。かしこまられることも好きではなく、だからこそ下級巫女の立場の方がいいと思っているというのもあるだろう。上級巫女の立場になると下級巫女よりも上流階級の立場の者たちと接することも多いのだ。

 尤もそもそも上級巫女は王侯貴族の出の者が多いので、産まれた時からかしこまられるのが当然という暮らしをしていると言えるだろうが。



「……何してんだ?」

「何って、なんか変なのいたから捕まえたの!」




 良い笑顔を浮かべているトリツィアは、その手に何か――鳥のようなものを引きずっている。かなりの大きさの鳥であるが、ぐったりとして、トリツィアにされるがままである。



 その笑みが愛らしいことが余計に恐ろしい。

 


「変なのって、術者が放ったものか?」

「多分ね! この鳥越しに私たちを覗き見するなんてデリカシーがないわ。巫女の生活を覗き見するなんて変態だわ!」

「いや、そうじゃないだろう。そういう変態的目的ではなく、巫女の力を使おうとしているのだと思うが……」



 この世には魔術師と呼ばれる者がある。

 魔力と呼ばれる力を使い、魔術師はあらゆる事象を起こす。

 ちなみに巫女の使っている聖なる力と魔力は根本的には同じような力である。ただ聖なる力は神聖なる力とされ、女神の意志をこの世に体現する特別な力とされているが。



 その魔術師が放った使い魔のようなものが、このトリツィアの引きずっている巨大な鳥であると言えるだろう。


 通常ならこのような大きな鳥が大神殿に入れば、それだけで大騒ぎになる。

 だというのに騒ぎがなかったということは、この鳥自体に相当な隠蔽の魔術が使われていたということだろう。



 多くの巫女が暮らす大神殿にそういう使い魔を放つと言う事は、トリツィアのいうような変態的な理由などではなく、その巫女の聖なる力を悪用しようとしている輩であろう。



「というか、その鳥、どうしようとしてるんだ?」

「え? 食べるよ?」

「待て待て待て。重要な参考物だろう、それ。術者がどういう存在かも含めて、神官長に報告が必要だろう。証拠品食べようとするな。そもそもそういう術者が放ったようなものを食べたらお腹壊すだろう」

「大丈夫! 術者には報復したし。私、こんなの食べたくらいじゃお腹壊さないよ! 美味しい鳥肉使った料理、聞いたんだよね」

「報復したって? あと、お腹壊さないにしても一旦待て。大神官にどうせ、報告してないだろう」

「うん。こうクイッって。術者は今頃、お手洗いにかけこんでるよ! んー、じゃあ一旦大神官に報告に行く。その後は食べる!」

「だから食べんなって! ほら、行くぞ」

「はーい!」



 何だかんだ、オノファノが幼馴染であるからか、トリツィアは聞き訳がいい。

 元気よく返事を返して、笑うトリツィアを見ながらオノファノは心の中で溜息を吐く。






(本当にこいつは……ちょっと目を離すとすぐにこれだ。……でも一番アレなのは、俺がこいつに惚れてるって事実か)




 ――オノファノという護衛騎士は、トリツィアという下級巫女に惚れている。

 それは幼い頃からである。トリツィアが巫女として大神殿に引き取られたから、彼は護衛騎士になることを決めた。

 この通りトリツィアは規格外に育ったので、幼いころに想像していた関係と今の関係は違う。

 けれどまぁ、規格外に育ったかなど関係なしにただ好きなものは好きなのである。



 というわけで、惚れているというのもあり、彼は彼女より強くなりたいと望んでいる。



 ……ちなみにトリツィアと友達である女神様はとっくに彼の気持ちに気づいており、「はやくくっつかないかしら!」とワクワクしていることは、本人たちは知らない。





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目は口ほどに物を言うのであって、聞くことはできないから最初の表現は誤り
[気になる点] > どうおかしいかと問いかけられれば、皆、口ごもる。正直言って、目は口ほどに物を言うという言葉通り、見た方が彼女のことが分かりやすい。 『目は口ほどに物を言う』は目でその人の意思や態…
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