食べ歩きに勤しみます ⑨
「レッティにはトリツィアがお世話になっているわよね。本当にトリツィアと仲よくしてくれてありがとう」
「女神様ー? 何で親みたいなこと言っているのー?」
「だって、トリツィアを受け入れてくれるでしょ? レッティがそういう態度だったからこそ、トリツィアがのびのびと過ごせているんだもの」
女神は昔からトリツィアのことを知っているので、レッティが居てくれたからこそトリツィアがのびのびと過ごせていたことを知っている。
なので、女神様はレッティに対してトリツィアの顔でにこにこしている。
その後すぐにトリツィア本人に代わって、表情がころころ変わるので見ているレッティは面白くなって笑ってしまった。
「私の行動がトリツィアさんのためになっていたのならばよかったですわ。トリツィアさん、新しい筆頭巫女の子にはトリツィアさんのことはくれぐれも言い聞かせていますが……、あんまり無茶ぶりはしないであげてくださいね」
「私は無茶ぶりなんてしてないよ? 普通のことをしているだけですよー」
「トリツィアさんの普通は普通ではないので、そんな風に自分は普通ですみたいな顔をしてもダメですよ……」
「えー? そんなことを言われても。それに私にちょっかいを出してくるんだから仕方ないですよね?」
「……まぁ、手を出されたら仕方がないですけど」
レッティも手を出されてしまったら仕方がないと頷く。しかしトリツィアの非常識な行動を黙認しているわけではない。
「レッティ、トリツィアはとっても可愛いから色んな人がちょっかいを出してきたりするのよ。それにこれだけ力が強いでしょう? トリツィアの力を知ったら放っておかれないもの」
「それはそうですね……トリツィアさんの力は非常識です」
「女神様とレッティ様も、私のことを非常識だって言いすぎじゃないですか?」
女神様とレッティに非常識と言われてむくれたような表情をするトリツィア。本人が何を言おうとも、トリツィアが非常識なのは周知の事実である。
本人が幾ら普通のつもりだったとしても、その普通が周りの基準と違うのだからそういうものである。
「トリツィアさん、本当に何かやらかすときは相談してくださいね。私も嫁ぐとはいえ、巫女を引退するつもりはありませんから。それにトリツィアさんが動きやすいようにこちらで調整も出来ますし」
「そうですね!! 大きい事を起こす時はレッティ様に相談しますね」
「……トリツィアさんの言う大きな事って本当に大事でしょうね」
レッティはトリツィアがいう大事だと本当に大惨事につながることだろうと遠い目を浮かべている。
そんなことが起きた時に、レッティは対応できるだろうかとそういう気持ちもあるようだ。
「ところで、レッティ様は旦那さんになる人のどういうところが好きなんですか?」
「急にそれを聞きます?」
「はい。だって気になりますから。私恋とかしたことないですし。どんな感じかなーって、結婚ってどういう風な気持ちになります?」
「……優しい人よ。一緒に居ると落ち着くの。だから結婚したいと思ったのだけど。結婚は新しい生活が始まることになるから少し緊張しているけれど、それよりも幸せだわ」
キラキラした目でトリツィアにみられておずおずとレッティは言った。こういう風に惚気のようなものを口にするのは中々恥ずかしいことだった。
「とっても素敵! 私もいつか素敵な人に出会えるといいなぁ」
「……トリツィアさんは、もう少し鈍感さを無くしましょう」
「どういう意味ですか?」
「そのうちわかるんじゃないですか?」
哀れ、オノファノ。
相変わらずトリツィアに全く気付かれていない。
トリツィアと女神様とレッティはその後もバクバクと食事を取りながら沢山会話を交わした。
その会話の中で、「レッティ様を傷つけたらレッティ様の旦那様をぶん殴ります」などと物騒な発言をされたため、レッティはぶん殴らないでと思ったものの……トリツィアたちがそう言ってくれることが嬉しかった。
(ふふ、私が不幸せになったらトリツィアさんと女神様が助けてくださるのね。なんて贅沢なことかしら。そう考えると結婚生活への不安なんて吹き飛ぶわ)
もしレッティに何かあれば、トリツィアはレッティを助けに行くだろう。気に入っている人が不幸になることをトリツィアは許さない。そしてトリツィアは相手が誰であろうともどうにでも出来るだけの物理的な力を持ち合わせている。
それをレッティは知っている。
「レッティ様、おやすみなさい」
「トリツィアさんも、夜更かしはしすぎないように。本日は楽しかったですわ」
「はーい」
あっという間に時間は過ぎて行って、レッティは帰る時間になった。
この後、トリツィアは女神様との女子会をすることが分かっているのでレッティは夜更かししないようにと注意しておく。
ただ、元気に返事をしたトリツィアだが、女神様との女子会は遅くまで続いたらしい。
翌日のトリツィアは少しだけ眠たそうにしていた。




