食べ歩きに勤しみます ④
二日目、トリツィアは重点的に泥棒などの犯罪を行っているものたちを取り締まることにしたらしい。
オノファノを連れて意気揚々と動くトリツィア。
トリツィアはすぐに犯罪者たちを見つけていく。その嗅覚というと、騎士たちのような本職よりも優れている。
トリツィアが巫女でなければ、トリツィアは騎士職などになっていたことだろう。
「んー、こいつら何でこんなに屯っているんだろ?」
「さぁ? でもトリツィア、一気に捕まえると違う街に犯罪者が流れる可能性もあるぞ」
「ふふ、逃がさないようにするに決まってるでしょ?」
トリツィアは、オノファノの懸念を聞いてもそう言って笑っていた。
トリツィアは有言実行の少女である。その信念はぶれることがなく、その自分の望みを叶えるために行動することも躊躇わない。
トリツィアは犯罪者たちを軽い調子で、まるで遊ぶかのように軽快に捕まえていく。
そのトリツィアについていけているオノファノも中々の規格外である。何だかんだトリツィアについていき、こちらもさっさと犯罪者たちを取り締まっていた。
さて、どうしてこんなに今年の祭りは泥棒が多いのかといえば、とある犯罪者組織がこの街に侵入し少しずつ根付こうとしていたからと言える。
巧妙な手口で、騎士たちの目をかいくぐってこの街に根付こうとしていた犯罪者たち。
――そしてこの街でもっと勢力を増やしていき、最終的にはドーマ大神殿さえも飲み込もうとする野望を抱いていたのである。中々恐れ多い野望であるが、そういう連中は女神様に敬意など抱いていなかったり、巫女が神の力をトリツィアのように使えると思っていない連中である。
その野望はトリツィアとオノファノが居なければ、少しは上手くいったかもしれない。しかし彼らにとっては残念なことにこの街にはトリツィアが居る。
特に今年はレッティと祭りを巡ると気合を入れている。
次々と捕縛されたり、ぶっ飛ばされている手下たちを見て焦ったその犯罪者集団の頭はトリツィアたちを本格的につぶそうなどという成功など万が一もしないことを企んだ。
トリツィアのことを正しく知る者たちからしてみれば、「やめた方がいい」と止められることであるが、その犯罪者たちを止めてくれる存在はいない。
――あの巫女を攫い、そして服従させろ。
それが彼の下した決断である。トリツィアが泥棒たちをさっさと捕まえ、力を振る舞っているのは把握している様子であるが、トリツィアのことを完全に把握できていないからこその言葉である。
哀れにもトリツィアのことを少しだけ強い女の子としか認識していなかった。
それに下級巫女に好き勝手されて彼のプライドも刺激されたのもあるらしい。
……遠くからこの街へとやってきて根付いた彼らは、トリツィアの恐ろしさというのを知らなかったのである。ついでに言えばトリツィアの事を知る犯罪者たちと繋がりがなかったのも災いしたと言える。
トリツィアは犯罪者たちが多かろうと、自由気ままに行きたい場所へとぶらぶらしている。誰が襲って来ようとも、何があろうとも問題がないのだ。
そして人気のない場所にオノファノと共に向かった先で、トリツィアとオノファノはその場に集められた男たちに襲われた。
たった二人相手なのでどうにでもなると思われたのかもしれないが、なんとも軽率な行動である。
ちなみにその場をたまたま目撃した街の騎士は、即座に近くに居た住民を保護しに向かった。トリツィアとオノファノは問題ないと確信しての行動であった。
結論からいうと、トリツィアとオノファノは彼らをすぐに無力化させた。全員仲良く意識を失わせる。
「んー、弱いね!」
「襲われた感想がそれか? 他に何かないのか?」
「ないよ。私を狙ってきたっていうのに、弱すぎでしょ。オノファノレベルが十数人とかだと面白いのに」
「俺と同じレベルがそれだけいたらトリツィアも流石にやばいだろ」
「まぁね。でももうちょっと殴り甲斐がある方が楽しくない?」
「巫女が殴り甲斐とかいうなよ」
トリツィアとオノファノは気絶する襲撃者たちの横で呑気にそんな会話を交わしている。
その後、騎士達がその場にやってきて彼らを全て捕縛して連行していった。
トリツィアとオノファノも尋問に同席し、彼らの親玉の場所を把握する。
「よし、オノファノ。大元をつぶしに行きましょう」
「ああ」
トリツィアの言葉を聞いて、オノファノも頷いた。
そのままトリツィアとオノファノは襲撃者たちの親玉の元へ突撃した。襲撃者たちがトリツィアを攫ってくると思っていた頭は驚いたものの、獲物が自ら来たと愚かにもトリツィアとオノファノに襲い掛かるように配下に命令を下した。
しかし当たり前の話だが、それが成功することはなかった。
「な、なんだ、お前は!!」
どれだけ配下を向けても倒れず、良い笑顔で対応するトリツィアに流石の犯罪者たちの頭も怯えた様子を見せる。
「私はトリツィア。ただの下級巫女だよ。犯罪者さん」
トリツィアはそう告げて、そのまま頭を殴って気絶させ、彼らも騎士達に引き渡すのであった。




