幼馴染の護衛騎士は、彼女より強くなりたい ①
聖なる力を持つ巫女は、神殿で過ごしている。
巫女としての仕事で外に出る時以外は、ほとんど神殿で過ごす巫女たちは、所謂箱入りと言えるだろう。
特に上級巫女と呼ばれる少女たちは、王侯貴族の出が多い。
ドーマ神殿に仕える上級巫女の中でも、一番身分が高い者は、公爵家の出だったりする。そういう上級巫女は特に箱入りであろう。
まだ下級巫女は、下級貴族や平民の出の者も多く、それなりに世間を知っていると言えるのかもしれない。
さて、巫女というものは、最低限の人々としか接することはない。
もちろん、巫女としての責務に置いて関わる人々はいるが、よく関わる人々というのは限られている。
神殿に仕えている神官や護衛騎士といった者たちが関わる対象であると言えるだろうか。
ちなみに女性でも巫女になりえる力がないものは、神官として神殿に仕えている。巫女になれるものは、特別な存在だけである。
大神殿や神殿で巫女は生活をしていて、巫女は大神殿にいることが多い。小さな神殿には一人か二人ほど巫女がいるかどうかである。そもそも巫女がいないような神殿もいる。
巫女が一人いるのと一人もいないのとでは、随分環境が違うものである。巫女は祈りを捧げ、奇跡を起こすと言われている存在だ。だからこそ神殿は巫女を、とどめておきたいと思っている。
巫女は特別な存在であり、それだけ狙われる存在でもある。巫女の力を手にしようなどと考えている悪人がいないわけではない。そして巫女は巡礼や、人々を癒すために神殿を離れる時もある。その時のためにいるのが護衛騎士である。
神殿に仕える騎士は、優秀なものだけである。巫女という特別な存在を守る存在は、それだけ強くあらなければならない。
悪人や魔物といったあらゆる脅威から巫女を守るべく力をつけた存在というのが、神殿に仕える騎士である。神官騎士である彼らは、周りから憧れられる存在だ。
その強さは当然、周りから憧れられている。それと同時に普段は人前に出てこない巫女の傍にいられるとのことで、その部分でも周りからうらやましがられたりするものである。
さて、そこにも一人の騎士がいる。
―—神殿に仕える騎士たちは、神殿に常駐するものもいれば、近隣の街に住まいを持っているものもいる。神官騎士は、神殿に仕えるものなので一か所に留まることなく、上からの指示で他の神殿で、違う巫女に仕えることだってある。
だけど、そこにいる一人の騎士――赤髪のまだ若い少年は神殿に仕えるようになってからずっとこの大神殿に仕えている。
その少年は、長剣を振るっている。
その洗練された動きはよっぽどの手練れであることを示している。
彼の名は、オノファノ。
神殿に仕える立場になって、既に六年ほど経過している。田舎育ちの彼が幼いながらに結果を出し、巫女を守る護衛騎士になれたのは、十二歳の時のことである。
十二歳で巫女の護衛騎士になって三年。それは驚異的な速さだ。大神官からも覚えめでたい。
さてそのオノファノは、ずっとこのドーマ大神殿にいる。
その理由はただ一つである。
「オノファノ!! 今日も鍛錬に勤しんでいるのか」
「はい」
年上の騎士から声をかけられ、オノファノはそちらを振り向いて返事をする。
オノファノは基本的に温厚な性格で、自分よりも先輩騎士に対して素直である。そういう素直な性格もあり、オノファノは騎士たちからも可愛がられている。
ただ素直であるだけで彼が一目置かれるわけではない。その強さに敬意を表して接しているというのもある。
「もっと強くならないとあいつにどんどん置いて行かれますから」
「……下級巫女、トリツィア様か。あの方は色々おかしいからなぁ」
――オノファノが強くなろうとしている理由は、他でもない下級巫女、トリツィアに置いて行かれないためである。
「はい。だから、あいつについていくために強さは必要です」
「……ついていける時点でおかしいけどな」
トリツィアは、下級巫女であるが周りから特別な存在と認識されている。それだけ彼女が普通にしているつもりでも、異常さを醸し出しているから。
神殿に仕える騎士というものは、巫女を守るためにある。巫女が自分の暮らしている神殿の外に向かう際に巫女の安全を保障するためにある。そのため巫女は一人で外に行くことはない。巫女ごとに専任の護衛騎士がいるものもいれば、外に出る度に護衛騎士を変える者もいる。
トリツィアはどちらであるかというと、前者である。
というよりもトリツィアについていけるものがオノファノ以外いないからと言える。
そもそもの話、オノファノはトリツィアとは昔からの仲である。それこそ、トリツィアが巫女になる前から、トリツィアと知り合いである。
要するに所謂幼馴染という仲だったりする。
だからトリツィアもオノファノを護衛騎士にしているというのもあるだろうが――、ただの幼馴染だからといってトリツィアについていけるわけがない。