力があるというのは、それを使う義務があると言うことではない ⑧
「跪くなんて真似はいらないわ。かしこまられるの好きじゃないしー」
トリツィアはそんな風に簡単な様子で言ってのける。
トリツィアの行ったことは、大きな偉業である。トリツィアがこの場を訪れなければ『ウテナ』は滅んでいた可能性がある。そして『ウテナ』は唯一無二の旅芸人の一座だ。
そしてあらゆる国に沢山関わっている。
その『ウテナ』が滅べば、それだけ大きな影響が世界に現れたということである。
トリツィアのあまりにも堂々とした様子に、『ウテナ』のものたちは一先ず跪くのはやめた。だけれどもその視線は、畏敬の念に満ちている。
疫病の問題をさっさと解消させてしまったのだ。『ウテナ』の面々がトリツィアのことを拝めるように見るのは当然と言えただろう。
「私たちを救ってくださった貴方様のお名前は?」
「私はトリツィア。ただの下級巫女よ」
「下級巫女?」
「……トリツィアは下級巫女の地位だが、その実、誰よりも力を持っている巫女だ」
『ウテナ』の代表であろう初老の男性の言葉にトリツィアは相変わらず下級巫女だと答える。その疑問に答えたのはオノファノである。
誰だ? といった視線を向けられたので、オノファノも自己紹介をする。
『ウテナ』の面々は、色んな国とかかわりがあるからこそ、外の世界を、外の常識を誰よりも知っている。そういう『ウテナ』の人々だからこそ、余計にトリツィアの異常性が分かるのだろう。
一先ずトリツィアとオノファノのことを彼らはもてなすことにしたらしい。トリツィアもおもてなししてもらえるのならば嬉しい限りなので、それに頷いた。
『あら、トリツィア。今日は珍しいところにいるわね』
そしてそのおもてなしの最中に、女神様から声をかけられる。
女神様はトリツィアがすぐに何処にいるのかというのが分かったらしい。
(女神様、こんにちは。今日は『ウテナ』の人たちを治しました)
『ふふ、トリツィアは本当に自由気ままね。トリツィア、でも周りを甘やかしすぎないようにね。貴方の力はとても特別だから』
(うん。分かってます。私も自分の力を好き勝手に使おうって人は嫌いだもん)
『トリツィアに無理強いする子がいたら私も許さないわ』
(ありがとう。女神様)
『でも『ウテナ』の子は、とてもいい子が多いわ。トリツィアも楽しめるはずだわ』
トリツィアは女神様にそう言われて、小さく笑う。
女神様とトリツィアの会話は本人達にしか聞こえていないので、周りからしてみれば急に微笑んだトリツィアは不思議であろう。
ただ『ウテナ』の面々は、トリツィアに敬愛を向けているので「笑われたぞ」「かわいらしい」などと喜んでいた。
ちなみにだが、トリツィアへの報酬が少なすぎるとシャルジュは脇の方で怒られていた。結局、トリツィアがそれを望んだからということでおとがめはなくなった。
トリツィアは美味しい料理などで歓待されている。加えて、お土産も沢山もらうことになった。あらゆるものを渡そうとしてくるので、トリツィアは「そんなに持てない」と断っていた。
そもそもそういうものをもらうために疫病を沈下させたわけでもないのである。
何だかその様子に『ウテナ』の面々は、トリツィアのことをキラキラした目で見ている。長老たち――年配の者たちはトリツィアがどういうことを考えて断ったかなどは何となくわかっているだろうが、それでも自分たちを救ってくれた存在なので、トリツィアに畏敬の念を向けている。
トリツィアが『ウテナ』の劇を所望したので、トリツィアとオノファノだけが観客の劇も行われた。
トリツィアは笑ったり、泣いたり、楽しそうに劇を見ていた。
楽しそうに劇を見ているトリツィアのことをオノファノは優しい目で見つめ、『楽しそうで何よりだわ』と女神様も笑っていた。
「トリツィア様、もう行かれるのですか?」
「ええ。私は大神殿に戻る必要があるもの」
そしてトリツィアは特に何か要望を口にもせずに、さっさと去ろうとする。
その様子は『ウテナ』の面々からしてみれば、好感度が高くなるのも当然である。
「――トリツィア様、何かあれば私たちはトリツィア様のために動きますので」
「ええ。何かあればよろしく」
トリツィアはただそれだけを口にする。
正直言って劇も見れたし、美味しいものも食べさせてもらえたし、お土産ももらったので――満足している。
なのでトリツィアは特に彼らに何かを望む気は今のところないのであった。
そしてトリツィアはオノファノを連れてそのままドーマ大神殿へと戻るのだった。
神官長たちもトリツィアたちが何かやらかして帰ってきたのだろうなとは気づいているものの、トリツィアだからと特に何か問い詰めることもなかった。
いちいちトリツィアがやらかすことを気にしていても仕方がないのである。
「お姉さん」
「また来たの?」
――ちなみに『ウテナ』の一件から、シャルジュは時々連絡係としてドーマ大神殿にやってくることになったわけだが、気づいているのはトリツィアとオノファノだけである。




