力があるというのは、それを使う義務があると言うことではない ④
服屋を出てぶらぶらしているトリツィアとオノファノ。
その服装から結構目立っている。こういう服装をしているトリツィアとオノファノのことを巫女と神殿騎士だとは思えないだろう。
街中の観光地である巨大な橋へと向かう。
その橋には前も訪れたことがあるが、何度来てもその大きさに圧巻されるものである。
トリツィアは橋の上で、くるりと一回りする。
「此処の景色って本当にいいよね。私、この橋の上からの景色好き」
そう言ってにっこりと笑うトリツィアに、オノファノは少し見惚れながら頭を振る。そして「俺もこの景色が好きだ」と同意の言葉を口にする。
トリツィアはその言葉に、「でしょ」と嬉しそうに笑った。
自分の好きだと言っている景色を、他の人が好きであると言ってくれることは嬉しいことである。
オノファノはトリツィアと一緒に街をぶらぶらと歩けることが嬉しくて仕方がない。それこそ巫女になってからは時々しかこうして一緒に出歩けないので、こういう機会があると喜ぶのも当然であろう。
トリツィアは、巫女という地位にあるからこそその制約を受けている。だけれども彼女は決して不自由であるわけではない。彼女は自由で、いつでもその制約から外れることだって出来る。
あくまでトリツィアが自分の意志で下級巫女であることを望んでいるので、オノファノもそれに不満を言うこともない。大体本当に嫌だったらトリツィアはどうにでもするのを知っているから。
「オノファノは次にどこ行きたい?」
「じゃああっちいくか? 公園のエリア」
「うん」
オノファノの言葉に、トリツィアは頷く。楽しそうな笑みを浮かべながら、頷いた。
そして一緒に公園内をぶらぶらと歩く。ついでに公園内でやっていたお店で食べ歩き出来るものを購入して、食べる。
その最中にトリツィアは、一人の子供相手に囲んでいる人たちを見かける。
「オノファノ」
「ちょっと待て。巫女のトリツィアが行くより、俺が止めた方がいい」
「え? いいじゃん」
「駄目だ」
仮にも下級巫女の地位にあるトリツィアがそういうことに関わらない方がいい。下級巫女という地位は、守られるべき存在である。こういうところで目立たない方がいい。
オノファノに言われて、トリツィアは渋々といったように頷いた。
何だかんだトリツィアはオノファノのことを幼馴染として尊重しているのだ。オノファノを信用しているからこそ、自分の悪いようにはしないことを理解している。
そういうことを理解しているからこそ、そういう態度である。
トリツィアはオノファノに「そこでまっておけ」と言われて、大人しく近くで待っておくことにする。
視界ではオノファノが騒動を止めているのが見える。そうしながらもちゃんとトリツィアのことを視界に留めている。これは巫女の護衛騎士としての職務を全うしているからと言えるだろう。
(オノファノはちゃんとしているよねぇ。多分神官騎士以外にもきっとなれるだろうに、何でわざわざ神殿騎士をやっているんだろう? 私はオノファノがいる方が動きやすいから)
トリツィアは全く持って鈍いため、自分の為にオノファノが神殿騎士として過ごしているなどとは思っていない。多分、オノファノはトリツィアが巫女をやめたのならばそれについていくことだろう。
花壇の脇に腰かけて、足をぶらぶらさせるトリツィア。
オノファノが華麗に場を治めている様子を見ながら流石だななどと思っている。
そしてそういう風に考えている中で、トリツィアに近づいてくる影があった。
トリツィアは当然誰かが近づいてきていることは把握していた。
「お姉さん、巫女だよね」
そういって問いかけてきた存在は、トリツィアよりも背の低い、フードを被った存在である。明らかに不審な存在を前に、トリツィアは動じない。
「私に何か用?」
トリツィアは軽い調子でそう問いかける。オノファノがトリツィアに近づいてきた存在を見て、近づいてきている。
「それも力がある巫女だって思う。だからお姉さん、僕たちのために動いてよ」
そんなことを急に言うので、トリツィアはこの少年は何を言っているんだろうと首をかしげる。
そもそもの話、力がある巫女だからって何でこの少年のために何かをしなければいけないのかというのはトリツィアには分からない。
「何で? というか、もしかして貴方達? 最近巫女たちに何か不可解なことをしているのって」
「試すためだよ。だって力がある巫女に動いて欲しいから」
そう言った少年にトリツィアは近づいて、その腕を思いっきり掴んでねじり上げた。
「え!?」
「ねぇ、巫女たちが怖がっているの、貴方達のせいね。……そんな意味が分からない理由で私の知り合いたちを怖がらせないでくれる??」
トリツィアはそう言いながら少年を冷たい目で見ている。
少年は巫女からこんな風に反撃されると思っていなかったらしい。幾ら力がある巫女だとはいえ、戦闘力などないと思っていたのだろう。
だけれども、トリツィアという少女は違う。




