力があるというのは、それを使う義務があると言うことではない ③
トリツィアとオノファノは、近隣の街へと癒しの旅へと向かうことになった。
ちなみに一応、護衛として騎士たちもいるが、トリツィアには実際は護衛など全く必要ない。寧ろトリツィアの方が強いのだ。
神殿騎士として経験を積むためも込めて、まだ若い神殿騎士が何人かつけられている。神殿騎士になったばかりのものだと、まだトリツィアの異質性を理解していなかったりするからというのもある。
トリツィアがおかしいということは散々聞かされても、実際のトリツィアを見なければ分からないのである。
「なんかこんなに人いると動きにくくない?」
「おい、文句言うなよ。早急に手配したのに」
「でもほら、オノファノと二人の方が動きやすいのに」
「それは仕方ないだろう。トリツィアに何か出来る奴なんてそうはいないだろうけれど……、仮にも巫女だからな」
トリツィアは行こうと思えば、オノファノを連れて二人で出かけられる。寧ろ一人で飛び出していくことだって可能である。
それでもちゃんと言うことを聞いて人を連れて癒しに行くあたり、トリツィアはまだ話が通じる。
トリツィアは巫女としての力が大変優秀である。とはいえ、その力を無条件で使用する気は全くない。神殿はきちんと対価をいただいた上で、そういう対応を行っている。もちろん、緊急時は別だが、そういう時以外はそういうものである。
トリツィアはそういう考え方を好ましく思っている。
トリツィアが癒しの力を使えば、民は感謝の言葉を口にする。トリツィアは軽い調子で巫女としての力を使っているが、他の巫女はこんな風に簡単には行かないものである。
「折角違う街に来たから、ぶらぶらしようよ。オノファノ」
「ああ。ちょっと待ってろ」
自由人なトリツィアは、楽しそうに笑いながら外に出ようとする。トリツィアは勝手に抜け出しても問題ないのではといった様子だが、オノファノはきちんと許可をもらいに行こうと動き出していた。
オノファノとしてみても、トリツィアと一緒に出掛けられると思うと楽しみになっていた。結構ご機嫌である。
そういうわけでオノファノは良い笑顔で、許可を取りに行った。オノファノのその笑顔に、神殿のものは許可を出すしかなかったのであった。
そして、トリツィアとオノファノは街を歩いていた。
ちなみに護衛は二人とも拒否したため、ついてきていない。
巫女服と騎士服だと目立つため、二人とも普通の服を着ている。こうしてみるとただの街人にしか見えない。
ドーマ大神殿から近い位置にある街なので、トリツィアも何度か訪れたことはある。とはいえ、たまにしか訪れない場所なので、以前とは変わっている部分も多々ある。
変化している場所も、変化していない場所も――両方見て回ることがトリツィアは楽しいと思っている。
そもそも大体が大神殿から出る事なく過ごしているので、こうしてたまに外に出るとトリツィアは楽しくて仕方がないのである。
「オノファノは何処、見たい?」
「トリツィアの服見に行くか?」
「何で私の服?」
「大体巫女服でも、それ以外の服もいるだろう」
トリツィアとオノファノはそんなことを話しながら、服屋に一度向かうことにした。それなりに人の行き来の激しい通りなので、オノファノは「はぐれないように」と口にしてトリツィアの手を握る。
オノファノはトリツィアの手を握りながら少しドキドキしていたが、トリツィアと来たら全く気にしていない様子である。
幼馴染である二人なので、昔から手を繋いだことはある。でも年頃の男女だからこそ、緊張をするのも当然である。
その様子をこっそり見ている女神様はトリツィアは全然気にしてないわねぇ。意識したらいいのに。などと思っているのであった。
服屋に行くと、店員の女性が近づいてくる。
トリツィアもオノファノも見た目が良いので、その女性はキラキラした目を二人に向けている。
「何かお探しですか?」
「トリツィアの服を見ようと思って」
「まぁ、彼女さんの服ですね」
「ぶっ、か、彼女じゃない!」
少しどもりがちにそんなことを言うオノファノ。
女性店員は、オノファノがトリツィアに惚れているということがぴーんと来ていた。
そしてその黄色い目を輝かせてトリツィアとオノファノの服を選ぶことにしたらしい。
「こちらとかお似合いですよ」
などといいながらお揃いコーデのように、衣装を選んでいく。
中々遊び心満載の女性である。
トリツィアは、白シャツと、黒いカーディガン。下は白いスカート。
オノファノは、上は白、下は黒である。
そしてその柄はトランプのダイヤ、クローバー、スペード、ハートなどが所々に描かれている。
「これで街歩いて宣伝してくれたらおまけしておきますよ」
なんて言われて、トリツィアとオノファノはその言葉に頷き、少し安い値段で服を手に入れた。
ついでに他の普段着も購入して、服屋を出る。それなりに購入したため、街の神殿関連の施設に送ってもらうように頼んでおいた。
それから二人は服屋を出るのだった。




