王子様、来訪する ③
何度もジャスタは、ドーマ大神殿にやってきている。
レッティは何とか、トリツィアとジャスタが遭遇しないように気を配っていた。そうやって気を配っていると、レッティも流石に疲れてしまう。
「レッティ様、疲れてます?」
「……トリツィアさん、気にしなくて大丈夫ですわ」
「そうなの? レッティ様が困るの嫌だから、どうにかします?」
「やめてください!」
疲れた様子のレッティに、トリツィアは話しかけ、そして頑固拒否される。
トリツィアは、レッティのそんな様子に驚いた様子だ。
どうして断るのだろうか、どうしてそんな必死なのだろうかとトリツィアは分かっていない。
「レッティ様がそういうなら、大人しくしていますよ。でもレッティ様、レッティ様が困っていたら言ってくださいね? 私もお助けしますよ?」
「……ええ、ありがとう。トリツィアさん。トリツィアさんは、王子殿下がいらっしゃっている間、なるべく会わないようにしていただけると助かりますわ」
「私は会わない方がいいの? 了解です」
トリツィアは、嫌な事は嫌だと言い切る人間だが、気に入っている相手の言うことは割と素直に聞いたりもする。
それだけ聞くと、トリツィアが利用されやすい相手に見えるかもしれないが、実質的にトリツィアを利用することは不可能である。
そもそもトリツィアを利用するということは危険が多い。もし彼女が利用されていることを知れば、暴れることは間違いなしである。そして利用したものは問答無用で破滅に向かわせることであろう。
何よりトリツィアは女神様の友人という規格外の位置にいる。
(トリツィアさんがまだ私に好意的でよかった。トリツィアさんが第二王子殿下に会わないようにどうにかしないと!)
そうやってレッティは決意を固めているのだが、その決意はすぐに折れてしまうことになる。
ジャスタは正義感が強く、暴走気味なところがある。こうしてこのドーマ大神殿にやってきているのも、王太子である兄に止められているにも関わらずこうして此処にやってきている。
国からしてみても、神殿という勢力は重要なので、第二王子であろうとも簡単に干渉出来る場所ではないのである。
……ただジャスタはまだ若いというのもあり、そのあたりを分かっていないのだ。
しかしジャスタは頭が働かないわけではない。
(やはり何か隠しているように見える。そこにこのドーマ大神殿の闇があるのではないか。このドーマ大神殿がきっと隠しているものになるのだろう。それを暴く事さえできれば――この国をもっと良いものに出来る)
あくまでジャスタは、正義感が強く、国の事を思っている。
その思いに間違いはない。だけれども、少しだけ考えが足らないからこそこうして暴走している。
――そしてレッティたちがトリツィアのことを必死に隠しているのを、このドーマ大神殿の闇を隠しているからと勘違いをしていた。
ちなみに付き合わされている侍女たちはそろそろ戻ったらどうかと思っているが口に出すことはない。かろうじてそういう意見を口にする第二王子の側近はいるが、ジャスタは全く聞く耳を持たないのである。
そうしてジャスタが粘り強くドーマ大神殿を無駄に探っているので、トリツィアは大人しくしているのにストレスを溜めていた。
というわけで真夜中に部屋を抜け出して散歩をしていた。
……そろそろトリツィアが色々やらかそうとしだすというのを理解しているオノファノは扉の前で待っていたので、一緒に散歩している。
「オノファノ、ついてこなくて良かったのに」
「俺はトリツィアの護衛騎士だからな。……それに俺が知らない所で、トリツィアが王子に会うのも嫌だし」
「なんか言った?」
「聞き返さなくていい。で、どこ行くんだ?」
「んー、ぶらぶらするだけ。ちゃんと王子様には近づかないようにするよ。レッティ様が嫌がっているからね」
トリツィアはそう言ってにっこりと笑った。
夜のドーマ大神殿の中を、二人はのんびりと散歩している。
ずっとドーマ大神殿で暮らしているトリツィアにとって、この神殿というのは自分の庭のような場所である。ずっと暮らしているこの場所をトリツィアは気に入っているし、自分の家のように思っている。
「それにしてもレッティ様を困らせているなんて王子は私にとって嫌な人かなぁ」
「……だからって何もするなよ?」
「何もされなければ、何もしないよ? レッティ様に大人しくするように言われているし」
レッティを困らせているという一点で、トリツィアは第二王子に対する好感度を下げていた。
そしてそんな会話をしながらトリツィアとオノファノは並んで神殿内を歩いていたわけだが――、
「……あの巫女は、関わったことがない。何て愛らしいんだ。わざわざ俺に関わらせないようにするなんて!」
……真夜中に抜け出していたジャスタがトリツィアとオノファノの様子を見て、変な勘違いをしているのだった。




