異世界から何か来るそうですよ? ⑯
「妹? 異世界の神が此処を訪れたのならば、流石に気づくかと思うけれど」
「……妹とはいっても、俺様が神になってからのではない」
女神様の不思議そうな言葉に、男神はそう言い切る。
その不自然な言い回しに、女神様は何とも言えない表情である。
「というのは? もし特徴などを教えてもらえれば、こちらでも探せますけど」
「……俺様もこの世界での妹の姿は知らん!! この俺様が人間であったころの妹が、どうやら同じように違う世界に居るかもしれないと知ったのだ」
「妹がいるかもしれないとは? それにあなたは元々人間なのかしら?」
不思議そうな顔をしている女神様。
(元々人間だったのに神様になるのって、女神様もそうだよねぇ。凄い偶然。というかそういうことってよくあることなのかな? 大神殿に伝えられている話の中では確かにそういうことも無くはないけれど……うーん? それにしても妹かぁ。死んだ後も家族に会えるかもしれないというのは凄く良いことだよね)
トリツィアは女神様と男神の会話を聞きながら、オノファノにくっつきながらそんなことを考え込んでいる。
「あの神様には妹がいるんだねぇ。家族と会えるのは凄く良い事だと思うよ。私もね、家族と離れ離れになったら会いたいなって思うもん。両親とルクルィアともう会えなくなったりしたら凄くかなしいもん。あとオノファノとも離れ離れだと寂しいって思うよ」
「俺も……他の誰かと会えないならともかく、トリツィアと会えないのだけは嫌だなってそう思うかな」
「ははっ、他の人はいいのー?」
「そりゃあな。他の誰かと会えないより、トリツィアと会えない方が俺は落ち込む」
「ふーん、そっかー」
「ニヤニヤするなよ」
「だって、それだけオノファノが私のことを好いているってことでしょ? にやつきもするよ!!」
トリツィアは揶揄うように笑っている。べたべたとくっつきながら、そんな会話を交わす二人はとてもマイペースである。
「くっ……なんだあの人間たちは!! なぜ、俺はいちゃついているのを見なきゃならないんだ!!」
「……トリツィアとオノファノはとても仲が良いのですよ。というか私の質問には答えずに何を悔しがっているの?」
「悔しいものは悔しい!! 俺はそんな女などいない!! あと元々人間なのはそうだ。妹との旅行中に死亡して、そのまま気づけば異世界の神になったのだ! なのに、もてることはない……」
男神はそれなりに整った顔立ちをしているのに、全く持ってモテていないらしい。
女性受けがなぜ悪いのかというのは、話を聞いているトリツィアには良く分からない。
「あの神様、私達が仲良しなのが悔しいって言ってるけれど誰かが仲良しなのって見てて楽しい事だと思うのに、なんでそうなるんだろう?」
「女性とそういう関係になったことない人の中には、羨ましがる者も当然いる。俺もトリツィアと恋人になったからって色々言われたし」
「そうなのー?」
「ああ。トリツィアはどれだけ規格外だったとしても、可愛いからな。一度もそういう関係に誰ともなったことなければ色々すさんでいる奴はいるぞ」
「へー、ふふっ、そっかー。私かわいー?」
「うん。可愛い」
そう言いながらオノファノがトリツィアの頭を撫でる。そうすればそれを目撃していた男神はぐぎぎっと悔しそうに歯を食いしばっている。
「うぅ……なぜ妹探しに来て、こんなものを見なければならぬのだ!! 瑠衣子に会わなければならないのに」
「え」
女神様は男神の嘆きを聞いて、驚いた表情になる。
「……岸田蒼人という名前だったりします?」
「え? そ、そうだけど」
「あなたの妹は私でしょう。……なんでお互い神様になってるの? お兄ちゃん」
呆れたように、だけどどこか嬉しそうに女神様が言い切る。そうすれば男神は目を大きく見開く。
「瑠衣子なのか?」
「そうよ。……あれね、二人して同じ瞬間に死んだから、それで神様になっていたってことなのかしら」
女神様が頷くと、その男神は勢いよく女神様――ようするに妹に抱き着こうとして、さけられていた。
「うぐっ、な、なんで」
「兄とはいえ、男性に抱き着かれると夫に嫌がられるからね。お兄ちゃん、我慢して」
「ええええええええ、瑠衣子、結婚しているの!?」
「叫ばないでほしいのだけど。そりゃあ、私達が地球で亡くなってからどれだけの時間が経っていると思うのよ。私だってそう言う相手の一人や二人出来るわ。寧ろなんで出来てないの?」
「うぅぅう……」
「今のお兄ちゃんの見た目、結構綺麗な方だと思うだけど……。お兄ちゃんが他の世界で神になっているなら、他の神様いるでしょう? 綺麗な神様とか、可愛い神様とか」
「……お、俺様は神になった時にちょっと調子に乗ってしまったのだ。それで少し引かれてしまって」
「じゃあ、残念なイケメン扱いされているような感じ?」
そう言われて、男神はショックを受けたように膝をつくのであった。




