異世界から何か来るそうですよ? ⑮
その男性は、美しい黒髪を持つ。それでいてその顔立ちも整っている。
どこか人を寄せ付けないような雰囲気であり、引きずり出されたことに不服なのか女神様のことを睨みつけている。
(この人も神様なのかなー? 私は女神様やクドン様ぐらいしか直接見たことはないけれど、こんな風に女神様のことを睨みつけるなんて嫌な感じ)
トリツィアは女神様に対して睨みつけるなんて真似をする男神を冷たい目で見ている。彼女からしてみれば、同じ神とはいえ女神様の方が第一なのだろう。
「なっ、貴様……! この俺様に何を!!」
「おー、女神様、聞きました? 自分のことを俺様って言いましたよ!! こんな一人称の人、いるんですねー。凄い!!」
口を開いたその男神の言葉に面白そうに声を上げるのはトリツィアであった。
……なんともまぁ、能天気である。彼女はその男神の口調の方が気になってしまったようだ。
その発言を聞いて、馬鹿にされたとでも思ったらしい男神はカッとした表情を浮かべる。
「ただの人間風情が俺様に何を言う!!」
「確かに私はただの人間ですよー? でもこの世界の神様ならともかく異世界からわざわざ私達の世界を害しに来たかもしれない神様相手に敬意は持てません。それに私の敬愛する女神様への態度が酷いのですもん!!」
……彼女は神を前にしてもこの調子であった。なかなかおかしいと言えるだろう。例え、この世界を侵略しに来たかもしれないとはいえ、それでも相手は腐っても神である。
しかし彼女は女神様への態度が良くない男神に色々思うところがあるようだ。
「トリツィア、女神様への態度に怒っているのは分かるが一旦喧嘩腰はやめろ」
「だって……」
オノファノに止められても、彼女は少し不満そうである。
「ふふっ、私のために怒ってくれてありがとう、トリツィア。あなたは本当にいつでも可愛らしいわ。私の大切なお友達だわ」
女神様は穏やかに微笑んだかと思えば、男神の方を見る。
「それであなたはどこの世界の神かしら? 私はこの世界で光の女神と呼ばれているソーニミアよ。異世界からの干渉によって、私の世界で暮らす者達が不快な思いになっていたりするの」
女神様はにこやかに微笑む。だけれどもその言葉には棘があり、ただ女神様がその男神のことを受け入れようとしているわけではないのは分かるだろう。
女神様に微笑まれ、男神はその美しさに一瞬黙り込む。
トリツィアは女神様の美しさは異世界の神にも通じるのだと、一人で誇らしげにしている。
「あなたがこの世界を害するつもりというのならば、私が相手になるわ」
笑みを零したまま、だけれども神力を纏わせ、戦う気満々の女神様である。
(女神様のこういう様子は初めて見たなぁ。女神様っていつも穏やかに微笑んでいて怒ったりとかあんまりしないもんね。それに女神様はこうして下界に顕現することもなかなか難しいからこういう姿はレアだもんね!! 目に焼き付けておかないと)
トリツィアの女神様への信仰心は深い。彼女はキラキラした目で、女神様を凝視している。
オノファノはそんな彼女を見ながらどこか呆れた様子である。
「怒っていたかと思えば、何を目を輝かせているんだ?」
「女神様の珍しい様子を見逃したくないの! 女神様ってどんな姿でも本当に素敵よね。こんなに素晴らしい女神様が仲良くしてくれているなんてすごく幸せなことなんだよー」
「そうだな」
トリツィアの言葉を聞いて、オノファノも笑った。
「……害するつもりなどない、少し用事があってこの世界に来ようとしていただけだ。この世界の人間共に迷惑をかけてしまったのならばそれは謝ろう」
偉そうな物言いだったので、謝罪などしないのでは? とトリツィアは思っていたが、予想に反して異世界からやってきた男神は女神様に簡単に謝った。
女神様もそのことに驚いた様子を見せている。
「謝罪は受け取るわ。ただこんな風に無理にこの世界に干渉するというのはもうやめてほしいわ。用があるというのならば、私が責任を持ってあなたを迎え入れましょう。他の神たちにも手回しはしておくわ」
女神様も好き好んで異世界の神と敵対をしようとは思っていなかったのだろう。そう口にして、穏やかに微笑む。
「侵略しにきたのかなー? って思ってたけど違うっぽいね」
「それならよかったな。女神様達が対応をしてくれるとはいえ、異世界からの侵略者なんて面倒だしな」
「だよねー。色んな人が死んだり傷ついたりしたら私はやだもん。それに女神様って戦うのとかそこまで好きじゃないはずだしね」
「ああ」
女神様が男神と会話を交わしている間、トリツィアとオノファノは仲良さげにこそこそと話し合っていた。顔を至近距離に近づけ、仲睦まじい様子を見せている。
「それで用事というのは?」
二人が話し込んでいる横で、女神様は男神へと問いかける。
「……俺様の、妹がこの世界に居るかもしれないんだ」
――そして男神はそう言い切った。




