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下級巫女です!!  作者: 池中織奈


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異世界から何か来るそうですよ? ⑫





「……本当に、トリツィアは。俺は我慢しているのに」

「結婚するまでは手を出す気ないってやつでしょー? 別にいいのになぁ」



 トリツィアは全く気にしていないといった様子で、オノファノを見ている。

 ――その瞳は、彼への全幅の信頼に溢れている。というより、ただオノファノがすることを何でもうけいれるような――そんな感情が浮かんでいる。



 そういう優しい、穏やかな瞳を向けられるとオノファノは当然緊張する。

 すっと、トリツィアから視線を逸らす。



「むー、なんでこっち見ないの?」

「手出したくなるから」

「もー、結婚してからしか手を出さないのは分かったけれど、こっちは見てよー。私、オノファノから視線をそらされると悲しいよ?」




 トリツィアはそう言ってグイっとオノファノの顔を自分の方へ向ける。

 彼女は折角結婚することを決めた相手がこうやって、顔を逸らしたりするのが嫌らしい。




「いい? オノファノは私と結婚するんだからちゃんと私のことを見てなきゃ駄目だよ?」

「ああ」



 オノファノは頷きながら、こんな言動をされるとトリツィアが自分のことを好きなように勘違いしそうだとそう思ってしまう。

 彼女はオノファノと結婚することを受け入れた。そして結婚相手として接することを許してくれている。



 ただしそれが恋愛感情であるかどうか分からないと、本人も言っていることだ。だからオノファノは時折、こうしてこの状況を受け入れていいのだろうかなどと不安になったりもする。

 もちろん、彼は彼女のことをよく知っているので、本当に嫌がっていないことは分かっているが。




「トリツィアも……他の男に興味を抱いたりしないでほしい。興味本位でキスをしたり、こうやって一緒のベッドで寝転がったり……全部俺だけがいい」

「そんなの当たり前だよ? 私は浮気とかする気はないからね。女神様もね、そういう浮気とかは駄目だって言ってたもん。そういえば私とオノファノが住んでた村でも、浮気でのいざこざあったよねー」

「そうだな……」



 頷きながらオノファノが思い起こすのは、小さい頃の記憶である。

 トリツィアとオノファノの暮らす小さな村。その村にとっての大事件が起きた。それは村長の息子が恋人がいるにも関わらず、街から商売のためにやってきていた大きな商会の娘と恋に落ちてしまったのである。

 そこで起こったのは、ドロドロの愛憎劇だ。

 青ざめた顔で止めている村長の息子と、つかみ合いをしている恋人と商会の娘。



 なかなか酷い事件だったなと今思い起こしてみても思うオノファノである。

 ただし当時まだ子供だったトリツィアとオノファノにそんなものを見せ続けるわけにもいかないと、すぐに両親たちによって家の中へと押し込められたので二人はその顛末を人づてにしか知らない。




「商会のお嬢さんのお父さんが怒って、そのまま村長の息子連れて行っちゃったんだっけ」

「まぁ、手を出したわけだし仕方ないだろう。残された恋人の方も気づいたら一家ごと引っ越していたしなぁ」

「あれだけの騒ぎになったから居にくくなったんだろうねー。浮気をしたら裏切られた方が凄く傷つくことになるんだよね。そういうのは私も分かるし、オノファノのことを悲しませたくはないからそんなことしないから安心していいよー」

「なら、良かった。なぁ、トリツィア。……ただ他に好きな奴が出来た時は遠慮はするなよ。俺はトリツィアが自然に笑っているのが、好きなんだ。無理なんかしてほしくないし、笑っててほしいんだ。でも俺はそんな事態になったらトリツィアが俺の元から離れないように情けなく足掻くだろうけれど」

「私のことを束縛したくなるって言ってたもんねー? でも本当にオノファノが嫌だって言うなら、二人で誰も居ない所でのんびり過ごすのもありかなーっては思うけれど」

「トリツィアは大神殿での暮らしを気に入っているだろう」

「それはそうだけど、オノファノが悲しんだりするのは嫌だなっては思ってるもん。オノファノが本当に私が誰かの元へ行くか凄く不安でどうしようもないって言うなら、そういう選択肢もあるんだよーってこと」




 トリツィアは相変わらず無邪気な笑みで、そんなことを軽く言い放つ。

 本当にそれを行っても問題がないとでもいう風に……彼女はただ笑っている。





「そうか。じゃあそういう時になったら言う」

「うん、それでいいよー。夫になる人の望みはなるべく叶えたいからねー。旦那様とか言ってみる?」

「……たまになら、聞きたいかも。でも俺はトリツィアに名前で呼ばれるのが好きだ」

「そっかー。まぁ、安心してね、旦那様。私は一度結婚するって決めたんだし、ちゃんと大切にするからね?」



 揶揄うようにトリツィアが笑えば、我慢が出来なかったオノファノはその唇に口づけを落とした。

 彼の目から見ると、トリツィアは可愛くて仕方がない。ずっと昔から大切にしていた女の子がこんなことを言ってくればそうなるのも当然と言えば当然である。



 ただし真面目なオノファノは、結婚するまでは……とそれ以上は手を出さないのであった。




 ――そうやって仲良く過ごしながら待つことしばらく、女神様からの連絡がきた。








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