異世界から何か来るそうですよ? ⑨
「オノファノ、ちょっと女神様と話すね?」
「ああ」
女神様の声に気づいたトリツィアは、その声を聞くことのできないオノファノに一言告げる。そしてすぐに女神様へと話しかける。
(女神様、忙しいのにありがとうございます!! ちょっと聞きたいことがあるのです)
そう話しかけるトリツィアは相変わらずオノファノにべったりとくっついたままである。
『あらあら。そうなのね。何かしら?』
(今ですねー。異音がするって噂の街に来ているのです。音が空の上から響いている気がして……もしかしたら神界が関わりあることなのかなと少し思ったりしてしまって……!)
『そうなのね。ちょっと待ってね』
女神様はそう口にしたかと思うと、何かを調べてくれているらしい。
「オノファノ、女神様が少し調べてくれているみたいだから少し待っていよー」
「そうだな。異音の正体、面倒なものじゃないならいいけど」
「どうだろうね? あ、そういえばね、女神様は私とオノファノが仲良さそうにしているのを見るのが好きみたいで、凄く嬉しそうにしてたよー」
「そうか」
「うん。女神様はね、私が幸せだと嬉しいんだってー」
そう言って屈託のない笑みを浮かべるトリツィア。
これだけ女神様から気にされている時点で、なかなか稀有な存在である。しかし彼女はやっぱりどういう時でも自然体だ。
「俺はトリツィアを幸せにしたいけれど、その行動がからぶっていたらちゃんと教えてくれよ」
「んー? それってオノファノが私のことを幸せにしたいって行動で嫌なことがあったらってこと?」
「そうだぞ。幾ら好意があるからといって、相手が嫌がる行動をしたら駄目だろ」
「基本的にそういうことはないと思うよ? 私ね、オノファノと一緒にいるのが凄く楽しいんだよ。オノファノがやることなら一回は受け入れるかなぁ。でも流石にどうしてもいやだったらちょっと要相談かも?」
「……トリツィア、俺はそんな風に受け入れられ続けると、我慢がきかなくなるからもうちょっと俺に厳しくしろよ」
「別に我慢きかなくてもいいよー? だって夫婦になるわけだし。私、結婚してもいいかなーって決めたけど、オノファノに本心隠してほしいわけでもないし」
彼女がオノファノとの結婚を決めたのは、どちらかというと興味本位の方が大きい。本人が言うように結婚してもいいかなと思ったから受け入れて、そう決めた。
そしてトリツィアは案外、結婚すると決めた相手には甘いのか、受け入れる気満々である。
そんな彼女の言葉をそのまま受け取ると、オノファノは沼に引きずり込まれてしまうような――例えばトリツィアがもし誰かに好意を抱いて自分との結婚を辞めても離れられなくなるような――そんな危険性を感じていた。
オノファノは昔から、トリツィアに好意を抱いている。だから彼女が本心からこれらの発言をしていることは分かっているものの、ついついそんなことを考えてしまうのであった。
「……そうか。俺はそんな発言を受け続けると、トリツィアから離れることが困難になりそうだけど」
「結婚するんだし、それでいいと思うよー。夫婦って一緒にいるものだし」
そう告げるトリツィアに、オノファノは脱力する。
「トリツィア、キスしていいか」
「どーぞー」
彼女は何処までも無邪気で、いつも通りで……オノファノのことを翻弄しているのである。
トリツィアはオノファノに口づけをされることも特に問題ないと思っているらしく身体を離して目を閉じる。そのまま口づけをされても受け入れているトリツィアである。
(オノファノは何が不安なのかなー? 女神様が結婚前はマリッジブルーというのになる人も多いって言ってたから、そういう不安? んー? 私が結婚取りやめるかもとか思っているのかも? 結婚してしまえばオノファノの悩みも吹き飛ぶかな?)
トリツィアはオノファノの、時折見せる悩む様子を思ってそんなことを考えるのである。
彼女はオノファノがそういう表情ばかりしていることに心配はしているのだ。それもおそらく自分のせいでそうなってるのは分かるのでどうしたものかと少し思う所ありである。
『……っ!!』
さて、トリツィアがオノファノから口づけを落とされている中、その脳内で声にならない声が響いた。
その後、どうやら息を殺して……というより一旦トリツィアの脳内に語りかけるのをやめたらしいその声の主に気づき、彼女は思わず小さく笑う。
(女神様ー!! もう終わりましたよー!)
そして口づけが終わった後に、トリツィアは女神様へと話しかける。
『邪魔をして悪かったわ! まさか少し離れた間にキスをしているなんて思っていなかったの。それにしても仲良しでとてもいいわね』
(ふふっ。女神様を邪魔なんて思いませんよー。オノファノが私にキスしたいって言っていたので、受け入れたのですよー)
『そうなのね! とてもいいことだと思うわ。今まで見たことのないあなたをこうやって見れるのはとても楽しいわ』
トリツィアの脳内に話しかける女神様は、大変興奮気味であった。若干息が荒いが、トリツィアはそれを気にした様子はない。
(それで女神様、結局異音は神界が関わりあるのです?)
『いえ、ないわ』
(そうなんですかー?)
『ええ。でもこの世界の神界は関わりないけれど、他の世界の神は関りあるようだわ』
女神様から言われたその言葉には、流石のトリツィアも驚いた様子になった。




