異世界から何か来るそうですよ? ⑦
「ふんふんふ~ん」
すっかり街は、静まり切っている。
日が落ち、灯されている光は街頭や家の明かり程度。そんな中を、トリツィアは誰にも聞こえないような小さな鼻歌を歌いながら進んでいる。
暗くなっている時間帯とはいえ、昼間と比べると人の気配がほとんどない。誰もが家の中で大人しく過ごしているらしい。
(異音騒動が起こってから、不気味がって外に出る人が少なくなったとは聞いていたけれど本当に全然いないなー)
彼女はそんなことを考えながら、軽い足取りで歩いている。
闇に積まれた中で、異音は鳴っている。――その不思議な音が、どこだと大きく聞こえているのかなども含めて確認したくてぶらぶらと歩いてみる。
昼間と夜だと、見えている世界が違うというか雰囲気が異なる。
聞こえてくる音も相まって、余計にまるで現実味のない不思議な世界に迷い込んでしまったような――そんな感覚になる人もそれはもう多いだろう。
(確かにたまにこういう音がなるのはいいかもしれないけれど、毎日鳴っていると確かに眠れなくなってしまったりとかするのかもね。私は慣れたらそのまま気にならないかもだけど)
トリツィアはそんなことを考えながら、街を歩き――そうすると彼女に近づく人影がある。
「嬢ちゃん、一人でこんな時間に歩くなんて不用心だなぁ」
「俺達と遊ぼうぜ」
彼女を囲うように現れた男たちは、ニヤニヤしながら近づいてくる。
この男達に関しては、こうして人気がない時間帯だからこそこういう風によからぬことをしようとする者達というのは少なからずいるのである。
彼女はこのような輩をこれまで幾度も見てきた。こうして絡まれることも少なくはない。
それはトリツィアが愛らしく、周りからすると侮られても仕方がない見た目をしているからこそだろう。
「遊ばないよー」
彼女はオノファノから「知らない人にはついていかないように」といつも言われているので、ついていく気はなかった。特に今回は異音調査のために別行動をしているので余計にオノファノの忠告は聞くつもりである。
トリツィアは結婚相手としてオノファノのことを選んだのだ。相手がどれだけ自分のことを好いているとはいえ彼の意思は尊重したいと思っているし、嫌な思いをさせたくないともそんな風に考えているのだ。
――だからこそ、にっこりと微笑んで告げる。
トリツィアの愛らしい笑みを見た男たちは、口元を緩めて彼女へと話しかける。
「そうは言わずに、俺達と遊ぼう」
「いいから、行こうぜ。暇なんだろう?」
そんなことを口にする男たちに、トリツィアは一瞬目を細める。彼女は基本的に平和主義で、すぐには武力行使をしようとはしない。一先ず言葉でどうにかしようとそう思ったのか、再度口を開く。
「無理だよー。今すぐ去るならそのままにするけれど、向かってくるなら対処するよ?」
彼女はにっこりと微笑み、忠告をする。
しかし可愛らしい少女にそんなことを言われても本気には出来ないらしい。
「そんな風に言っても――」
「いいから――」
そう言いながらトリツィアの腕を掴もうとする。
それを見て彼女は、その手を弾く。そうすれば男たちは激高する。
トリツィアはそんな彼らに向かって笑って、そのまま彼らのことを気絶させる。そして騎士団の詰所まで運ぶ。夜の時間帯でも一名は騎士が常駐しているらしい。トリツィアは事情を聞かれたりするのも面倒なので、その場に男たちを放り出す。それから扉だけノックして、男たちの存在に気付かせるとそのままその場を去った。
(よし、これでいいはず。外に放り出したまま放置でもいいけれど、こっちの方がいいしね。さてと、このまま異音の調査を進めないと)
トリツィアはそんなことを考えると、そのまままた街を歩き始める。
――その街をぶらぶら歩きながら、異音は昼間よりもずっと鳴り響いている。
場所によってその音は、音量が異なることは分かる。大きく聞こえる場所と、小さく聞こえる場所の違いは今の所彼女には分からない。
(何かしらの法則でもあるのかなーって思うけど分からないなぁ。あとは時間とか? どうなんだろうね。オノファノの方がこういうの調べるの得意だろうし、一先ず私は情報収集だけ出来ればいいか)
そんなことを考えているトリツィアは、オノファノのことをとても信頼していることが分かるだろう。
彼女自身は深く考えても分からないと思ったらしく、ひたすら夜の街で遊びながらぶらつく。夜の時間に開いている店はほとんどないのでただ街の雰囲気を楽しんでいるだけである。はた目から見るとただ遊んでいるだけに見えるだろう。
(……んー?)
そうして彼女は街をぶらつきながら、一際その音が大きな場所に来た。
どこから音が鳴っているのだろうかと、彼女は五感を研ぎ澄ませる。
「やっぱり、空から聞こえてそう」
そして彼女はそう呟く。そして周りに誰も居ないのを確認すると、跳躍する。空に向かって巫女の力を使ってみるが、何も反応はない。
(届かないか。んー、やっぱり良く分からない)
彼女は何度か試した後、反応がないと知るや否やそのまま一旦諦めるのだった。




