異世界から何か来るそうですよ? ⑤
街の広場の一番の特徴は大きな噴水だろうか。
その噴水の周りで、子供達が楽しそうな様子で囲んでいる。
「オノファノ、見てみて。凄く楽しそうだよ」
「そうだな」
「足を入れている人達もいるね? 私達も混ざってみる?」
トリツィアはその様子を見ながらそう問いかける。目の前で子供達が噴水に足を入れて遊んでいる様子を見るとついつい同じように交ざりたいなと思ってならないのだろう。
「行くか」
「うん! 大人も一緒に入っているし、いいとおもう」
そんな会話を交わして、二人して噴水の方へと向かう。そしてそこに足を入れてぱしゃぱしゃと動かす。
オノファノもその隣に腰かける。
この場には沢山の人々がいる。街では異音騒動で少なからず、不安を感じている人は多い。ただそれらの感情をなんとか隠して日常を謳歌しているのか。それともトリツィア達が思っているよりも不安を感じていないのか。
そのあたりはトリツィアとオノファノにも聞いてみないと分からない。
「お姉ちゃんたち、見ない顔だね?」
トリツィアが水遊びをしていると、子供の一人から話しかけられる。
興味深そうに彼女を見ている子供は、トリツィア達がよそ者だというのが分かったのだろう。
「遊びに来ているんだよー。君はこの街で暮らしているの?」
「そうだ!」
「そうなんだねー。ちょっと聞きたいのだけど、最近、この街で異音がしているって本当?」
トリツィアがそう問いかけると、その子供の様子が少しおかしくなる。表情が暗くなり、黙り込む。
明らかに何か知っている様子である。
(どうしようかな。異音のことを聞きたいとは思っているけれど、この子、話したくないのかなー? どうなんだろう? それにしてもこういう風な表情をするなんて異音とどういう関わりがあるんだろう?)
トリツィアにはその子供が暗い顔をする理由はあまり想像が出来なかった。とはいえ、そういう表情の子供にこれ以上聞くのはどうなのかなと考える気遣いは彼女にもある。
「えっと……異音は確かにしているよ」
トリツィアがどう話しかけようかと考えている間に、子供が口を開く。
「そうなんだー。私もそういう噂は聞いていたけれど、それで何か困ってたりするの?」
彼女はそう言って、無邪気な様子で問いかける。
「変な音だなって俺は思うだけだけど、お母さんは……凄く嫌みたい。夜に寝れないって最近、イライラしているんだ」
子供は悲しそうな顔でそう口にした。
「なるほどー。そうなんだね。確かに夜にうるさかったりすると寝れなかったりするし困るもんね」
トリツィアはそう答えながら、様々なことを考え込んでいる。
(夜に寝れないのって確かに嫌な気持ちになっちゃうかもね。私も眠れなかったら嫌だなって思うもん。それにしてもこんな風に悲しそうな顔をするなら、よっぽど子供にあたったりしてしまっている? んー、そういう風に子供にあたってしまうのかなぁ。困るよねぇ)
彼女はまじまじと、子供のことを観察する。
見るからに表立った怪我などはない。顔色は悪くない。少し暗い顔はしているけれども、その程度。
だから表立って、虐待などは行われていないというのは分かる。そのことにはトリツィアはほっとしている。
彼女は基本的に、そういうことを見るのが嫌である。だからそういうことが起こってないのは良いことだと思っているが、このまま放置すると状況が悪化するのでは? と考えているようだ。
「うん。そうなんだ。お母さんが困っていて……俺、嫌だなって思ってて」
「だよねぇ。お母さんが眠れるように何か贈り物をするのはどうかな? 眠れるように何かしら出来ると思うんだ」
トリツィアはそう言って子供に笑いかける。
そうすると子供はこくりっと頷いた。
「おかしな音に関しては私達大人がどうにかする予定だから、ちょっと待っててね?」
彼女は続けて、そう告げるのだった。
その子供と話した後は、他の住民たちにトリツィアとオノファノはまた聞き込みを始めた。
愛らしい顔立ちのトリツィアは周りの警戒心を解くものである。にこにこと笑いながら話しかけるトリツィアを見ていると、オノファノは自然と笑顔になっていた。
「やっぱりトリツィアはこういう風に話しを聞くのが得意だな」
「そう? 皆、ちゃんと話してくれるから助かるなと思っているけれど…」
「それはトリツィアが聞いたからもあるだろうな。見た目の印象ってやっぱり重要だしな」
しばらく聞き込みをしていた後、トリツィアとオノファノはそう言って会話を交わす。
オノファノ一人だけであったならば、こんな風に話を聞いてもらうことなど出来なかっただろうと彼自身は思っている。
彼女の愛らしい顔立ちだけが原因ではなく、その雰囲気が柔らかいことも住民たちが話をしてくれる理由の一環であろう。
「それにしても細かい部分だけど、やっぱり皆困っているんだね」
「そうだな。大事にはなっていないけれど……あんまり続くと大変なことにはなりそうだな」
オノファノの言葉を聞いて、トリツィアは頷くのであった。




