上級巫女は婚活に勤しみ、下級巫女は祈りに勤しむ ③
レッティは、トリツィアから話を聞いてから婚活により一層勤しむことになった。
レッティにとって、トリツィアの言っている言葉というのは、真実だった。そもそもトリツィアがレッティに嘘を吐く必要は全くない。
彼女はそんなものをつかなくたってレッティのことをどうにでも出来るだけの力を持っている。
――そのトリツィアが他でもなく、いうから。
(それにしてもトリツィアさんは、女神の声が聞こえるのですか。神に仕えている巫女は、神の言葉を聞くことが出来ると言いますけれど、それも一時的なものではなく恒常的に女神の声を聞いている? 私なんて神託として受けるぐらいしか出来ないのに。神の声を聞くだけでもそれだけ消耗すると言われているのに、トリツィアさんは少しも疲れた様子もなかった)
力のある巫女は神の声を聞くことが出来る。名ばかりの上級巫女ではなく、きちんと力のある上級巫女であるレッティは、準備をした上で神託を受けたことは何度かある。それもなんとなくそのニュアンスが分かる程度だ。
だけどそれだけでもレッティは消耗する。それでもトリツィアは平然としていた。
その様子を見る限り、やっぱりレッティの想像通りにトリツィアの巫女としての力はとてつもなく強いのだろう。
レッティはそれを思って笑ってしまう。
あれだけ歴代最高と言えるぐらいに力が強くて、恐らく女神とも普通に会話を交わしているようなそんな巫女なのに、本人が上級巫女になって面倒なことはしたくないと下級巫女のままである。
やろうと思えばなんでも出来るけれども、それでも下級巫女のままで生きて行こうとしている。その様がレッティにとっては眩しくて面白かった。
――そしてレッティは、トリツィアから話を聞いてから婚活のパーティー会場では、結婚してからも巫女を続けること、そして男女の営みを経験しても巫女の力を失わないことをまわりに公言している。
神からお告げをいただいたのではと騒がれていたが、まぁ、女神と直接話せているトリツィアからの言葉なのでそれも間違いではないと言えるだろう。
そしてレッティは、その後、何度目かのパーティ―で良い結婚相手と出会うことになる。まだ婚約期間なので、しばらくはドーマ大神殿にいるが、そのうちこの大神殿を出ることになるだろう。
(女神様、レッティ様、結婚相手見つかったんだって、おめでたいね!)
『そうね。とても素敵なことだわ。レッティの相手のことも調べたけれど問題なさそうだしね』
(女神様、レッティ様のこと、結構気に入ってますよねー。私もレッティ様のこと、結構好きですよー)
『ふふ。そうね。上級巫女はこの場を婚活の場と思っている方が多くて、まぁ、それも幸せになれるならばいいかなって思うけれど……。でも上級巫女たちの中でもあんなふうにレッティみたいに真面目に巫女として祈りを捧げ続けた子はいないもの。それに此処に来た当初はともかく、今はとてもやさしくて自慢の巫女だわ』
今日もトリツィアは、楽しそうに祈りを捧げながら女神様と会話を交わしていた。
真面目に祈りを捧げたり、真面目に巫女として活動する上級巫女は少ないので、レッティは女神様からしてみてもお気に入りの巫女になっているらしい。
(女神様のお墨付きがあるなら大丈夫ですね。でも人は変わることがありますし、レッティ様を不幸にしたら殴りにいきましょう! 殴りこみです!!)
『ふふふ、いいわねぇ。私たちの気に入っているレッティを苦しませたら天罰だわ。私って女神だから直接人に影響を与えるのはしないようにってなっているけれど、トリツィアって依り代越しならある程度できるしねぇ』
(ふふ、よかったね。女神様、私がいるから結構干渉出来るんですよね)
『そうよ。だからトリツィアがいてくれて嬉しいわ。もちろん、そういうの抜きでもトリツィアと一緒に過ごすのは楽しいのだけどね。トリツィアも可愛いんだから、どんどん婚活したらいいかなって思うのだけど』
(んー、私はそのうち考えるかなぁ。今の所、こうして下級巫女としてのんびり過ごすのも好きですしね)
トリツィアの見た目は自他認めるかわいらしさを持つ巫女である。トリツィアが婚活をすれば結構男は寄ってくることだろう。
ただトリツィアは平民の出なので、王侯貴族を相手にすることはまず考えていなかった。
『トリツィアはとても力が強くて可愛いから、それを知られたら色々狙ってくる人もきっといるわ。その時は何が何でも私がトリツィアが不本意な形で結婚なんてしないようにするからね』
(ありがとうございますー。心強いですけど、なるべく自分で対応しますよ。女神様とは恐れ多くも友達だと思っているので、何でもかんでも女神様の手助けはしてもらいたくないですもん。でも本当にどうしようもなかったら頼みますね)
『もちろんよ!』
トリツィアは、女神様とそんな会話をしながらもいつも通り祈りを続けるのであった。




