上級巫女は婚活に勤しみ、下級巫女は祈りに勤しむ ②
レッティはパーティーに参加している。
このパーティーには、ドーマ大神殿の巫女たちだけではなく、近隣の神殿の巫女たちの姿も多くいる。それでいて神殿では慎ましい姿をしているが、こういうパーティーの場では華やかに着飾っている。
元々神殿に仕えている巫女というのは、毎日入浴し、規則正しい生活を送っている。その肌も美しい。その着飾った巫女たちに周りの男たちは次々と話しかけている。
やはり巫女という地位は、王侯貴族たちにとっては妻にするのにふさわしいステータスなのだ。
レッティは巫女としての力も強く、美しく、地位も高いレッティには多くの男たちが集まっている。
「レッティ様は歴代一の実力を持つ巫女で、素晴らしい!」
「レッティ様が我が領地に――」
レッティは人々に囲まれながら、にこやかに微笑んでいる。
(私が歴代一の実力を持つなんて、片腹痛いですわ。私よりもずっと誰よりも力が強い方がいるもの)
レッティは、トリツィアという存在を知らなかったら――もっと傲慢な巫女になっていたかもしれない。自分以上に強い力を持つ存在がいないと、そう思い込んでいたかもしれない。
だけどトリツィアを知っている。あの例外的で、一般的な巫女からは考えられないようなことを成し遂げるような存在がいることを知っているから。
レッティは様々な人たちと交流をこなしながらも、どういう相手が自分の相手に相応しいのだろうかというのを思考し続けている。
レッティに話しかけるものたちは、婚約を結んだらレッティが巫女を引退するというのを決めつけている者が多い。
巫女は高貴な立場であり、この国内では巫女のことを特別視している。――けれどもやっぱり女性は男性の言うことを聞いておけばいいということを思っている者も多い。それに貴族とは、子を繋ぐことが重要である。
もちろん、若ければ若い程子をなしやすいので、当然、すぐに子をなそうとするものだろう。
そうなると純潔を失えば力を失うと言われている巫女は、力がある巫女ほど子をなすことを諦めたりもするのだろう。
レッティは、子もなしたいし、巫女としても働き続けたい。
そう願っている。――それは難しいことだと分かっていても、両方手にしたいとレッティはのぞむ。
パーティーが終わって、レッティは大神殿に戻り、自分はどんなふうに選択をしたほうがいいのかというのを悩み続けている。
大神殿の中庭。庭師の手によって手入れされている美しい場所で、レッティは空を見上げている。
そうしているレッティの目の前に、急にトリツィアが現れた。
「レッティ様、どうしたの? 一人って珍しいです」
そう、その時のレッティはトリツィアがいうように一人でいることは珍しい。もちろん、一人とはいえ、少し離れた所には護衛がいたりもいるわけだが。
「トリツィアさん」
レッティはトリツィアのことを見て、ふと気になったのでレッティはトリツィアに問いかける。
「――トリツィアさんは、結婚とかはどう考えているのですか?」
「結婚? んー、まぁ、結婚したい相手がいたらするかもしれない。でもその時にやりたければだけど」
「……でも結婚して、その方と結ばれたら巫女としての力はなくなってしまうでしょう? トリツィアさんは、巫女としての力がなくなってもいいのですか?」
「んー?」
トリツィアはレッティの言葉に首をかしげながら、しばらく黙る。
その間にトリツィアは女神様に問いかけを発しているのだが、そんなことを目の前のレッティが知る術もなかった。
「……私は結婚もしたいけれども、巫女としても出来うる限り働き続けたいと思っているのです」
「うん。そうですか」
レッティの真剣な顔とは違い、トリツィアはにこやかな笑みを浮かべていた。
そしてトリツィアは、レッティに対して思ってもみないことを伝える。
「レッティ様は結婚しても巫女の力はなくならないですよ。真面目に巫女として祈りを捧げていて、結構巫女の力も強いですし。結婚してもその神様への信仰心を失うことがなければレッティ様は巫女としていれますよ」
「え?」
トリツィアがにっこりと笑って告げた言葉に、レッティは驚いたような顔をする。どうして突然、こんなにも自信満々にそのような言葉をトリツィアが言っているのかレッティには分からないのだろう。
そんなレッティの耳元にトリツィアは顔を近づける。
そして内緒話を告げるかのように、にっこりと笑っていう。
「――女神様が、レッティ様は力が強くて真面目だから大丈夫って」
「え?」
「内緒ですよ? だから今まで通りレッティ様が生きていくなら、大丈夫です」
女神様と会話を交わせることは、周りに告げていることではない。
だけれども昔からの付き合いのレッティがあまりにも悩んだ様子だからこそ、トリツィアはわざわざレッティにそんなことを告げたのである。
「トリツィアさん……あなた」
「……ふふ、内緒ですー」
レッティの言葉に、トリツィアは口元に人差し指をあててしーっという仕草をして去っていった。




