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彼女は下級巫女、ただし女神様とは友達 ①




「ふんふんふ~ん」



 ムッタイア王国の、王都から少しだけ離れた街に位置する大神殿の一つ、ドーマ大神殿。

 その大神殿には、多くの巫女が仕えている。


 聖なる力を宿した乙女は、巫女として神殿に仕える。このドーマ大神殿には、多くの巫女と神官が存在している。



 この世界にとって巫女というものは特別な存在で、それは神の声を聞く者であり、神の代わりに世界に投げかける者である。



 はじまりの巫女――このムッタイア王国の建国にも関わっていた聖なる乙女――『建国の乙女』『はじまりの巫女』などと呼ばれている彼女は、女神の声を聞き、その力を持ってしてこの世界で伝説になったと言われている。



 紫の髪と、紫の瞳を持ち、巫女服を身にまとったはじまりの巫女は、それはもう美しく強大な力を持ち合わせていたと言われている。

 その絵姿は、この国に広く伝えられている。

 この国は建国して四百年以上たっている。その四百年間、『はじまりの巫女』の言い伝えと絵姿は途切れることなく、伝えられている。

 『はじまりの巫女』は、この国だけではなく、周辺諸国にも伝えられている。それだけの偉業を成した存在である。



 このドーマ大神殿は、その『はじまりの巫女』と関連深い場所である。

 巫女の住まいは、女性陣だけで形成されている場所である。過去に男性神官と良い仲になって、神殿から逃げ出した巫女がいたというのもあり、基本的には男子禁制なのだ。基本的に巫女の力というのは、二十歳になるまでに上昇し、それから徐々に弱くなっていくと言われている。特に結婚、出産を重ねれば巫女の力はなくなっていくものと思われている。



 なので巫女の力が弱くなってからは、巫女も結婚していくものである。寧ろ上級巫女に関しては神殿に金銭を寄付している王侯貴族や大商人ばかりであり、上級巫女はある一定の年齢から結婚相手を探したパーティーなどによく出かけていくようになっている。

 上級巫女であったという事実は、将来有望な相手との結婚が可能になるので、乙女たちはそれに憧れているものである。ただ乙女でなくなると聖なる力は弱まっていくと言われているので、そういう仲には巫女のうちにならないように周りは目を光らせているわけだが。



 ただ巫女に接する男性というのは少なからずいる。それは神殿に仕える男性神官や、巫女が巡礼のために向かう際に側に控える護衛騎士である。彼らと恋仲になる巫女もそれなりに多い。ただ許可なく恋仲になれば罰則を受けることには当然なるが……。




「ふんふふ~ん」



 ドーマ大神殿の、巫女の住まい。その中をその巫女は楽し気に歩いている。藍色の美しい髪が窓から入ってきた風で靡いている。艶のある髪に、ふっくらとしたつやつやの肌――随分良いものを食べていると言えるだろう。

 大神殿での巫女の生活は、国によって保障されているのもあり、一般的な平民よりは良い暮らしをしているのだ。……最もこの巫女に関しては、色々普通とは事情が違ったりもするわけだが。





 その巫女の名は、トリツィア。

 幼き頃、六歳の時に聖なる力を認められ、大神殿に引き取られた由緒正しき巫女である。

 トリツィアは、この大神殿に仕える下級巫女である。先祖は没落貴族らしい……。ただし実際にはどういう血を継いでいるかはトリツィアは自分で理解はしていない。




 貧しい子だくさんの家に次女として生まれたトリツィアは、貧しい暮らしをしていた。そしてある時、巫女の偉大な姿を見て、巫女に憧れた。自身が巫女になれたことをトリツィアは喜び、こうして楽し気に巫女としての暮らしを満喫している。




 トリツィアは、今年十五歳になる。

 年を重ねるごとに力を失うものもいるので、これだけ長く神殿にいるものは少ない。

 毎年のように巫女は大神殿にやってきて、色んな事情でいなくなるものである。





「トリツィア、おはようございます。今日も精が出てますね」

「おはようございます!! 朝のお祈り行ってきます」



 鼻歌を歌うトリツィアに声をかけたのは、この大神殿に長く仕えている二十代後半の巫女である。この年まで聖なる力を失わずに、結婚もせずに大神殿にいる彼女とは、トリツィアは仲が良い。


 元気に挨拶をするトリツィアを彼女、ラウダは穏やかな笑みで見ている。



 トリツィアは、信仰深い下級巫女である。朝、昼、夜と自主的に誰にも強制されることなく、女神の元へと祈りを捧げに行く。

 祈りの場には、美しい女神像がある。その女神像の前で、毎日毎日、祈りをささげるのがトリツィアの日課だ。




 トリツィアは、手を合わせて祈りを捧げる。

 その様子は、何ともまぁ信仰深い巫女としか見えない。トリツィアのかわいらしさも相まって、周りはその様子に感心するものである。




 ただし周りは知らない事実であるが――、




(女神様、おはようございます!)

『おはよう、トリツィア。今日も元気ね』

(とても元気ですよ! 女神様、今日の朝食は身体が温まる北の地方でよく食べられる料理なんだって! 食べたことないものだから楽しみです!!)

『よかったわね』




 祈りの時間とは、トリツィアにとっては友人でもある女神様とのお喋り時間である。






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