面倒な話が舞い込んできたようです ⑦
「オノファノ、遊ぶよー」
「ああ」
さて、オノファノがトリツィアに気持ちを伝えた後も……彼らの関係は変わっていないように表面上は見える。
それはなぜかというと、トリツィアが「一先ず分からないから、一旦保留で!」とそう口にしたからである。なんせ、彼女は恋などというものを知らない。周りで恋する人々を見ながら、楽しそうだなと思うもののそういうものを自分がすることを欠片も考えていなかったのである。
(んー。恋かぁ。一緒に過ごしてどう思うかってことだよね)
彼女はのほほんとしているように見えて、オノファノの気持ちを蔑ろにしようとか、適当にあしらおうとかそういうことはしようとしていない。真剣に考えてはいるのである。
今回、トリツィアがオノファノとお出かけに出かけようとしているのはきちんと考えたいと思ったからである。まずは始めようとしているのは、意識をすることから。
当然のことだが、トリツィアはこれまで恋などというものを全く考えてこなかったのでオノファノに対してそういう風に見たことはなかった。
(女神様も、意識してみたらそういう感情も抱くかもしれないって言っていたもんね。それに女神様は恋なんてものには色んな形があるって言っていた。夫婦にも色々あるんだって。女神様はクドン様以外とはそういう関係なったことないって言ったけれど、神様の世界だと色々な神様がいるって言ってた)
トリツィア、恋愛経験はないもののいつも女神様と沢山話しているのもあって神界での恋愛事情などもそれなりに知っている。そして女神様は本人の恋愛経験はともかくとして長く生きているのは事実である。
ちなみにだが、街を歩く際にトリツィアはいつもの巫女服ではなくきちんとおしゃれをして私服に着替えている。女神様がそういう服装をした方がいいという助言の元である。そもそもただ一緒に出掛けるだけならばいつもとなんら変わりがない。
トリツィアとオノファノは普段から親しくしており、二人っきりで出かけるのも珍しくない。
オノファノも護衛としての――騎士服ではなく私服である。
トリツィアとオノファノの私服に関しては、大神殿で暮らす者達が全面協力して準備された。オノファノの気持ちを知っている者も多いので、単純に周りは応援していると言える。
またトリツィアとオノファノの規格外さを十分にこの大神殿で暮らす者達は理解している。だからこそ、二人が結ばれるのはちょうどいいなというか、しっくりくるというようなそういう感覚である。
単純に昔から二人のことを知っているからこそ応援しているというのもあるが……。
「トリツィア、その服、似合ってる」
「ありがとー。オノファノも似合ってるよ!」
今日のトリツィアは、桃色のワンピースを身に纏っている。元々愛らしい顔立ちをしているトリツィアによく似合う。
そして赤色の帽子をかぶり、長い髪は二つに結んでいる。
オノファノはそんなトリツィアを見て、笑みを浮かべている。
大神殿のあるその街の人々は、トリツィアとオノファノのことをよく知っている。彼らがこうやって私服でお出かけをするのはなかなかないことなので、一部の者達は注目をしていた。
「オノファノ、どこ行きたいの?」
「あー……どうする?」
「行きたいところない?」
「俺はトリツィアと一緒ならどこでも楽しめる」
「そうなの?」
「ああ」
「そっかー。まぁ、私もオノファノと一緒なら楽しいとは思うけど。今日は大人しくぶらぶらする?」
トリツィアはオノファノの言葉を聞きながら、いつも通りにこにこしていた。特にこの状況に不快さなどは全くないらしい。ただオノファノと一緒にこうして普段とは違う恰好で遊ぶのは、楽しいのだろう。
「トリツィアが街の外で遊びたいなら魔物討伐でも俺は構わない」
「そっかー。他の巫女達が、デートは大人しくするべきだよって言ってたけど」
「そうか、デートか……」
デートと言われてオノファノは嬉しそうに頬を緩ませていた。トリツィアはそんなに嬉しいことなのかと、不思議そうだ。
「俺はトリツィアが生き生きと、楽しそうにしている方がいい。普通はこうだからみたいに無理する必要は全くない。俺はトリツィアと一緒なら魔物討伐でも、盗賊退治でも、危険な場所へと探検でもなんでも嬉しい」
「そうなの?」
「ああ。どういうのをデートと認識するかどうかは俺達がどう思うかだしな。どういうものだろうと、俺達がそうだと思ったらデートでいいだろ」
「なるほど。じゃあ、一旦は普通のデートみたいなのをしてみようよ。私はそういうのしたことないから、折角だから。それでその後は街の外で遊ぶといいかも」
「両方やるか」
「うん。片方より、両方やる方がお得な感じする。よし、とりあえず最近、美味しいパン屋さんが出来たらしいから行こう」
トリツィアはそう言って、オノファノに手を差し出す。そうすればオノファノは一瞬驚いた顔をする。
「女神様がデートは手を繋ぐって言ってたよ!」
そして彼女のその言葉を聞くと、オノファノは笑って手を重ねるのであった。