面倒な話が舞い込んできたようです ⑥
「んー? どうして?」
トリツィアはオノファノの言葉を聞いた上で、驚いた表情をした後にそう問いかけた。
なぜ、そんなことを言いだすのかというのがぴんと来ていなかったというのが正しい。
トリツィアの言葉に、言いよどむオノファノ。なんと切り出したらいいか悩んだ様子のオノファノに、トリツィアはにっこりと笑う。
「もしかして私が望まぬ相手と結婚するぐらいならって気を遣ってる? オノファノは昔からそうだもんね。でも幾ら私のためでもそんなことを言っちゃ駄目だよ?」
彼女はいつも通りである。オノファノの言葉の意味を考えて、そういう結論に至ったようである。
あくまでこういうことを言いだしたのは、幼なじみであるトリツィアのことを気遣ってだろうと想像が出来ていた。
――トリツィアにとっては、オノファノは昔から仲良くしている幼なじみである。
巫女として大神殿に入って、しばらくしてオノファノが神殿騎士になった。彼女はいつだってマイペースで、下級巫女としての暮らしを楽しんでいる。村から、大神殿に入ったことは後悔はしていない。
それでもトリツィアはこうして幼いころから知っているオノファノが騎士として神殿に居ることは単純に嬉しいことではあった。
彼女はよく理解が出来ないとか、怖れられたりとか――そういうこともよくある。トリツィアにとっては普通のことでも周りにとってはそうではないと、そう言われることは多々あるから。
そもそもトリツィアについていける存在などあまりおらず、巫女という立場であるからこそ、護衛が居ない状況では十分に遊べない。だから、オノファノが居るからこそ今のようにのびのびと過ごせていると思っているので、感謝はしている。
トリツィアは例えばオノファノが居なくても、彼女らしく生きていただろう。その事実は周りの環境がどうであれ何も変わらない。それでも今の生活において、オノファノという存在は重要である。
「そうなのじゃない」
「そういうのじゃないっていうのはー? オノファノ、結婚したいとか? 誰かに何か言われた? 確かに私たちが住んでいた村とかだと、私達の年代で結婚したりもしていたと思うよ。でもオノファノは結構もてるでしょー? そんなに焦んなくていいと思うけどなぁ」
トリツィアがのんびりとそう告げる中、女神様は黙っている。確かにこの状況を見ているはずなのに、おそらく何かしら思う所があって見守っているのだろう。
先ほど興奮した声をあげたがそれだけで、それ以降は黙っているのである。
「……大前提で俺はトリツィアのことが好きだ」
「んー?」
「トリツィア、分かってないだろう。えっとな……俺は、異性としてトリツィアに好意を抱いている」
オノファノがそう言い切ると、トリツィアは驚いたような表情をする。
そしてその頭の中では声にならない女神様の声が、響いていた。その声は本人にしか聞こえないので、一瞬びくつきそうになる。
ただすぐにオノファノの言った言葉を理解して、トリツィアは口を開く。
「うんうん。そうなんだー」
「……ああ」
「それで、私と結婚したいの?」
「そうだな。……言っておくけど、トリツィアにとっては急なことだとは思うけれど、俺にとってはそうじゃないからな。確かにその、焦ったのはある。トリツィアは何があっても、誰が相手でも本気で嫌なら抵抗することは分かっている。でもこういう話が来て、そのうち……そういうことに興味を持つんじゃないかなとかは思った」
「ふーん、なるほどー。確かにそうだね。私も興味が出ることはあるかもね」
「それにトリツィアは、仮にこの人だって決めたらすぐに結婚しそうだし」
オノファノの言葉を聞いて、トリツィアはいつも通りである。オノファノの言葉に驚いたものの、一旦受け入れたようである。
こういう時でも何を考えているかよく分からない、そんな様子であった。
目の前で会話を交わしているオノファノも……トリツィアは何を答えるだろうかというのが想像出来ていない。
基本的にオノファノは彼女と昔からの知り合いなので、その思考は理解出来ている方である。とはいえこういう場合は想定していないのでトリツィアの言葉を待つ。
「それはそうかも。オノファノは私のことを好きなのか、そうなのね。全然気づいてなかった」
「トリツィアは鈍感だから。結構分かりやすかったと思うけれど。……とりあえずまぁ、結婚云々は俺が急ぎ過ぎた。それはすまない」
「謝らなくていいよ。王族とかが関わっているからそのこともあって色々と思う所があって私にそんな提案したんだろうし」
「ああ。あと、トリツィアに振られても俺はすぐには諦めないからな。今、興味がないって言うならそれはそれだし。本当に嫌がられたら流石に神殿騎士は辞職するけど」
「オノファノも思いっきりがいいよね。でもそうだなぁ――」
トリツィアは考え込むような仕草をして、オノファノに対して返事をした。




