面倒な話が舞い込んできたようです ①
「ほら、オノファノ、見てこれ」
「それどうしたんだ?」
「女神様がね、貸してくれたの」
トリツィアは自慢をするように、身に纏っているものをオノファノに見せびらかす。
普段とは違う種類の巫女服。ひらひらのそれを着たトリツィアを目撃しているのは、オノファノだけである。
というのも彼女は敢えて、こういう風に人が全く居ない場所で見せつけていたから。
「女神様が?」
「うん。あのね、この前、女神様と一緒に普段とは違う恰好したでしょ。女神様がね、こういうのも似合うかもって貸してくれたの」
トリツィアはそう口にしながら、にこにこしている。
――トリツィアは女神様のことを心の底から慕っている。幼いころからの信仰対象であり、女神様と話すことをとても楽しんでいる。
先日の女神様と普段とは違う恰好をして、一緒になって遊んだこと。それは彼女にとっても楽しくて仕方がないことではあった。
この世界や大神殿にとっては女神を下ろすことが出来るような存在というのは特別である。
その存在が公になればなるほど、騒ぎにはなるだろう。それだけこの世界にとっても一大事なこと。
それでも……彼女にとってはあくまで日常の一部でしかない。そこまで騒がれることだとは思っていないし、今の日常が壊れるのは嫌だとそう感じている。
そういうわけでどれだけ女神様と親しくしていようとも、色々やらかしていたとしてもトリツィアはいつも通りであった。
「そうなのか。それも女神様が用意したものなのか?」
「うん。神界の神様達から借りたものとか、準備してもらったものとかなんだってー。女神様にね、よく似合うからオノファノにも見せたらって言われたの」
彼女が今、身に着けているものも神の名を冠する衣服類ばかりである。そもそも神界から持ってきたものを身に付けていたり、神に纏わるものというだけでも本当にかえがたい特別なものだ。
それを身に着けてただ嬉しそうににこにこしているトリツィア。それを見て、オノファノも柔らかい笑みを浮かべている。
「オノファノ、どう、可愛いー? 女神様は可愛いって言ってくれたんだけど」
「ああ。可愛い」
「ありがとう! こういう女神様から借りた物を似合っているって言われると凄く嬉しんだよね。それにね、こういうものを借りられるのって私が女神様と仲良しなんだって証だと思うからそれも嬉しい。あとはちょっとした力も纏っているものだから身に着けているとちょっとだけ力が増すんだよー。そういうものだから、あんまり人には貸さないって女神様も言ってたの」
「まぁ、そんな特別なものをぽんぽん貸し出されたら大混乱だからな。トリツィアなら変なことには使わないだろうから女神様も安心だろう」
「これで変なことには使わないって言って借りておいて、女神様の意に沿わないことに使うなんて私はしないよ。だってそんなことをしたら女神様とこれからも仲良く出来なくなっちゃうもん。私の目標はこの命が尽きるまで、ずっと女神様と仲良くすることだから」
満面の笑みを浮かべるトリツィアの表情は愛らしく、オノファノはそれを見ているだけで嬉しくなるものだ。
幼いころから知っている、大切な女の子。
そのトリツィアが生き生きと、楽しそうに過ごしている様子を見るだけでオノファノにとっては幸せなのだ。
「女神様は本当にトリツィアのことを信頼しているよな。そうじゃなければこれだけのものを貸そうなんてしないだろうから」
「ふふっ、私と女神様は仲良しだからね。でもこういうものは、見る人が見ればすぐに特別なものだって分かるから信頼できる人にしか見せられないんだよね。それがちょっと残念だなってそう思っているの!」
「まぁ、俺もよく似合っているとは思うから他の人にも見せびらかしたい気持ちはわかるが……こういう恰好をしたトリツィアを見たら色んな人たちが寄ってくる可能性があるからな」
オノファノの言っているのは、女神様と親しくしてるからという理由でトリツィアに近づく者が多いだろうというのも当然あるが、その愛らしい見た目に惹かれるものが居そうだとそれを心配しているからというのもある。
トリツィアは当然、後者のことは考えておらず前者のことでオノファノは心配しているのだろうなとそう思っている様子であった。
「そうだよねー。だから、私がこういうのを見せるのはオノファノにだけだよ!」
「……ああ」
他意はないことは分かっているが、オノファノはトリツィアからそんな風に言われたことが嬉しいと思って仕方がなかった。
トリツィアがオノファノと同じ感情は抱いていなかったとしても、それだけ自分を信頼してくれているのは嬉しいことだったから。
――きっと、トリツィアとオノファノの関係性はしばらくの間は変わらないだろうと、少なくともオノファノは思っていたのである。
しかし、とある問題が彼らの周りに浮上することになった。
「父上が君に会いたがっている……」
微妙な表情でそう言ってきたのは、この国の第二王子であるジャスタであった。




