下級巫女と、女神の寵愛を得ているという少女の話 ⑪
女神ソーニミアからの神託。
それが高位神官へと下され、ジュダディという少女はソーニミアの寵愛を受けていないというのが公表された。
……しかし、神の声というのは一部の者しか聞くことが出来ない特別なものだ。如何に、この世界が神という存在が身近であったとしても、目に見える者を信じる人々というのは確かに存在する。
ジュダディはその信託後も、自分はソーニミアの寵愛を得ていると言い放った。それどころか、高位神官の方が偽りを口にしていると。
愚かなことに、それを信じてしまう者もいなくはない。
「どうしたものかなー? オノファノ的にはどう思う?」
「女神様に神託を下してもらってもこの調子なら、平穏に終わるのは難しいだろうな」
「うん。私はそれはそう思う。これだけのことをやらかしているんだから、ちゃんとどうにかしなきゃだよねー。こういう風に神様の名が騙られるのを放置しているのは私、嫌だし」
トリツィアは女神様のことが心の底から大切に思っている。
なので、どうにかしなければならないとは思っているもののこういうものに遭遇するのは初めてなので色々と考えているのである。女神様の評判が下がるような形の
トリツィアは神託でこの騒動が収まればそれでいいと思っていた。彼女の知る女神様は基本的に平和主義で、よほどのことがないと罰を与えたりなどしない。ジュダディに関しても、此処で大人しくなるなら何か働きかけるつもりもなかったはずだ。
それでも……この状況は放っておけない。
「巫女姫様は何か意見ありますー?」
「そうですね。……私の個人的希望は本物を見せればいいと思います」
トリツィアが巫女姫に問いかければ、巫女姫は真剣な表情でそう答える。
巫女姫としてもこの状況はどうにかしたいと思っている。ジュダディがこのまま女神様の寵愛を得ていると主張し続けることで、巫女姫の立場は悪くなってしまうだろう。
大多数がジュダディの主張を信じ切ってしまうのならば――、女神様への信仰と勘違いしたまま神の座から堕ちた存在に信仰が集まるかもしれない。
神の座からおりたくなかった神様。
その存在は、神の座に戻るために動き始めようとするだろう。
「本物?」
「はい。……トリツィアさんはソーニミア神をその身に降ろせるでしょう? ですから、それを見せるのは難しいでしょうか」
「んー。それをしたら、私の今の平穏な生活がなくなりますかねぇ。それは正直言って嫌なので、それは方法とか考えておきたいですね」
トリツィアとしてみると、女神様を降ろすこと自体には何の問題もない。トリツィアは今の下級巫女生活を謳歌してやまないので、そういうことで自分の日常を崩されるのは嫌だなと思っているのであった。
こういう時でもマイペースなのが、なんともトリツィアらしいと言えるだろう。
『トリツィア、それなら変装して立つのはどうかしら! 舞台みたいでとっても素敵だと思うの』
トリツィアがオノファノと巫女姫と今後のことを相談していると、突如として彼女の脳内に女神様の声が聞こえてきた。
神託を下すという話を聞いて以降、女神様とは会話が出来ていなかったのだが……ちょうど女神様は暇が出来たのだろう。
(変装ですか?)
『ええ。仮面でも被って、いかにも私と関連がある風の女の子を装って、神秘的な雰囲気で現れるの。そこでトリツィアが演技をして、私が降りて……なんて楽しそうじゃないかしら?』
脳内に女神様の大変楽しそうな声が響き続け、トリツィアは考え込む様子を見せる。
「トリツィア、どうかしたか?」
「トリツィアさん、突然黙ってどうしたのですか?」
「えーっと、女神様と丁度今お話ししていて、変装して見せつけるのはどうかって言われているのです。ちょっと女神様と話すので待っていてくださいね」
トリツィアはオノファノと巫女姫の言葉に答える。
当然、二人はトリツィアの言葉に口を閉じて、彼女のことを見守っている。
(女神様は、私がそうやって変装するの見たいですか?)
『ええ。だって私の大切なトリツィアがそういういつもと違う姿を見せるの、とっても楽しそうだもの。それと同時にあの寵愛を受けていると自称している子と、神の座から降りた存在も……両方ともどうにか出来て一石二鳥だと思うわ』
(それはそうですねー。でもやるなら私だって本当に分からないように徹底的にしたいです!!)
『そうね。やるなら、とことんやるべきよね。髪の色とかも変えてみましょう。私が違和感ないように変化させるわ。あとは声も変えた方がいいかもしれないわ。見た目と声の印象が変わればそれだけトリツィアだと認識できなくなるはずだもの』
(確かにそれだと私だって分からないかもですね!! それなら私の平穏な日々がそのまま出来そうなのでいいかもって思いました)
『ふふっ。そうよね。トリツィアの日常は大事だものね。もし仮にトリツィアだと知る人がっ出てきても、今回は神から堕ちた子が関わっているから、私も働きかけられるからどうにでもするわ』
女神様は、トリツィアに向かってそう告げる。
余程トリツィアが変装する様子を見たいのだろう。女神様の声を聞きながら、トリツィアは「じゃあそれで行きます」と元気よく答えるのであった。




