下級巫女と、女神の寵愛を得ているという少女の話 ⑧
『トリツィア』
(あ、女神様、お久しぶりですー。女神様に私、聞きたいことがあるのです)
トリツィアがジュダディと会話をした翌日、朝、目を覚ましたトリツィアの耳に久しぶりの女神様の声が聞こえてくる。
相変わらずの優しい、信頼の籠った呼びかけ。
それを聞いたトリツィアは、にこにこしている。
彼女が居るのは、巫女姫が用意してくれた神殿の一室である。まだまだジュダディに対して接触する気満々のトリツィアはまだドーマ大神殿には帰宅していなかった。
別の場所にいようが、トリツィアのやることは変わらない。いつも通り、トリツィアは女神様へと祈りを捧げ、それでいて巫女姫様に事前に確認をとり、神像などを掃除したりなどをする。誰かに言われることなく、トリツィアはそういうことをいつも行う。それだけ彼女の信仰心が高い証であろう。
『久しぶりね。トリツィアが元気そうで私は嬉しいわ』
(私も女神様が元気そうで嬉しいですよー。ところで女神様、寵愛って誰かにあげました?)
『いいえ。あげていないわ。……私の寵愛を得ていると言っている子がいるみたいね?』
女神様の困ったような声が、トリツィアの頭に直接送り込まれている。
女神様はこのようなことで怒ったりはしておらず、ただどうしようかと困惑しているようだ。
女神ソーニミアはこの世界でも有名な女神様である。その名を勝手に騙る者などあまりいないのだろう。
(そうなんですよ。女神様の寵愛を受けているって自信満々に言ってましたね)
『あらあら、凄いわね。私は彼女に話しかけたことも一度もないのだけれども』
(本当に困ったものですよねー。女神様の名を勝手に騙っているなんてすごく不遜っていうか、あとから何か面倒なことが起こったりとか考えないのかなー?)
『ふふっ、トリツィアは本当に可愛いわね。そういうことを何も考えずにそういうことをする人はいるのよ?』
(そっかー。でもなんか特別な力は持ってそうですけれど、何か知ってますか?)
トリツィアはせっせと掃除をしながら、女神様とそんな風に話している。
『そうねぇ……。あの子のことを知ってから少し調べてみたけれど、どうやら元々神であった子が関わっているみたいだわ』
(あれ、神様がそうじゃなくなるとかあるんです?)
トリツィアには神の世界のことは詳しく分からない。よく会話を交わしている女神様ソーニミアとその夫である神様クドンぐらいとしか直接関わることはない。他の神々のことは詳しくないのである。
もちろん、巫女として一般的な神様の情報は知っている。信仰深いトリツィアは、人間界で広まっているものぐらいは把握しているが……そういう神から堕ちた者については知らない。
不思議そうなトリツィアの頭に、優しい女神様の声が聞こえてくる。
『そうねぇ。こういう情報はあまりあなたたちに広まることは少ないものね。それにね、その子が神じゃなくなったのはずっと前のことなのよ。だから寿命の短い人族の子たちには伝わってないと思うわ。あとは私達としてもそういう子のことを広めようとは思っていないから』
(なるほどー。それにしても神じゃなくなったってことは何か問題でも起こしたのですか?)
『そうね。神界で問題を起こした神はその座から落とされることはあるわ。どういう問題を起こしたかはトリツィアにも伝えられないの。ごめんね』
(全然大丈夫ですよー。神様の世界にも色々ありますもんね。それにしても女神様のように神様達って優しい人たちが多い印象なのですけれどその女神様にとっても許容出来ないことを起こしてしまったってことですもんね)
彼女はそう言いながら、神様の世界でそこまでされる問題ってなんだろうなどと思考している。とはいえ、考えても分からないわけだが。
『私は優しいわけではないわよ? 厳しい時は厳しいわ』
(ううん。女神様はとっても優しいですよー。私は女神様と話しているだけでほっとしますしね)
『ふふ、ありがとう。でも神様が全員こういう性格なわけではないから、他の神たちともし関わることがあるならもう少し気を付けるのよ? 何かあったら私はとりなすけれど……』
(もちろんですよー。でもまぁ、他の神様と直接関わる機会なんてあんまりないと思いますけれど! ところでその神様じゃなくなった人がどうして今頃色々やらかしているんですか? ずっと前に神様じゃなくなったっていうのならばもっと前から色々暗躍しているものじゃないかなって思うんですけれど)
トリツィアからしてみると、それは疑問なのだろう。
その神じゃなくなった存在が暗躍しているにしても、どうして女神様の名を騙っているのか、そして今頃、こういう行動を起こしているのか全く分からない。
『そうね。理由の一つはその神がやらかした後にしばらく弱体化させられていたからね』
(弱体化?)
『そうよ。トリツィア達、人族からしてみると今頃かもしれないけれどようやくその弱体化が解けたのだと思うわ』
女神様はトリツィアの疑問にそう答えた。




