大神殿の上級巫女、昔を回顧する ③
トリツィアはその見た目や性格からとても目立っていた。
ドーマ大神殿の中で特異な存在となったトリツィア。その悪目立ちを気に食わないとするものたちも少なからずいた。
下級巫女でありながらも、普通とは全く違い、ただただ異色だった。
そんなトリツィアのことを虐めぬこうとした巫女は、現在このドーマ大神殿にはいない。
そしてその虐めぬこうとした巫女が複数人でトリツィアのことを呼び出して、暴行しようとした。
正直神に仕える巫女が何を言っているんだ? と思えることだが、昔のドーマ大神殿はそれなりに腐敗していたので、そういうことも起きていた。
イドフ大神官も昔は腐敗に力を貸していたものの、今ではすっかり更生している。とはいえ、昔の大神殿では上級巫女が好き勝手していて、その権力を使って神官騎士に横暴な真似をさせたりもしていた。それに乗ろうとする騎士も騎士だが、腐敗していた大神殿なので、そういう下種な事を行うものも当然いたのだ。
トリツィアがかわいらしい見た目をしていたのもあり、下種な表情を浮かべながらトリツィアに近づいている神官騎士。
だけどただやられるような存在ではない。
トリツィアは何をしたかといえば、聖なる力を身体に纏い、大神殿の柱を殴った。もちろん、本来ならば小さな少女であるトリツィアは、それをどうにかすることなど出来ない。だけれども、トリツィアはそれをやってのけた。
巫女としての聖なる力をそういう風に使うものはあまりいない。そもそも巫女とは神殿の庇護下で守られる存在であり、そんな風に自分の力で戦う必要はない。あとはただ単に聖なる力は自由自在に使うことは難しいというのもある。
だけどトリツィアはその聖なる力を、自分の手足のように操っていた。
そして大神殿を破壊しながら、神官騎士を容赦なく気絶させ(おそらく手加減はしている)、その様子を見ていた上級巫女は震えて失神していた。
……その様子をレッティは見ていた。
トリツィアが大勢に囲まれているのを見て、心配していたレッティ。その心配が杞憂だと思ったと同時に、その力を見て驚き、トリツィアは自分とは違う存在なのだというのを理解した。
同じ巫女だという枠組みとして考えるのがまず間違っている。トリツィアは、トリツィアというただ一人の存在だ。他の誰とも比べることなど出来ない。ちなみにその後、トリツィアが破壊した跡は大部分が修理されたが、一か所は残されている。
それはトリツィアの恐ろしさを新しく来た巫女に伝えることに役立つからというのが一つの理由である。
レッティもトリツィアがやってきた身体を鍛える術をやってみようと思ったことがある。だけど上手くいかなかった。聖なる力を体の一部に集めることも難しかった。そもそもできたとしても制御が難しい。身体の中でその力が渦巻いて、レッティは高熱を出してしまったほどだった。
そうやって自分であえてやってみたからこそ、トリツィアの異常性をレッティは理解した。その異常性を理解した上で、レッティはトリツィアの事は好きにさせておこうと思った。下手に手を出されても困るので、新しく神殿にやってきた巫女や来訪者たちにはトリツィアに手を出さないようにと目を光らせている。
(というか、トリツィアさんは昔よりも色々異常になっているものね。トリツィアさんは今なら何でも出来るのではないかしら? そもそも普段何をしているかもわからないし。ただトリツィアさんがいればこの大神殿に襲撃などがあってもとりあえず問題はないし。……というか、多分あの封印されている邪神もトリツィアさんがなんかしてそう。怖くて聞かないけれど)
昔からトリツィアの付き合いのあるレッティは、邪神のこともトリツィアが何かをしたのではないかとなんとなくわかっている。ただ恐ろしいので詳細は聞くつもりはない。
(あとはトリツィアさんを追いかけてきたオノファノさんが来てから益々行動的になったり、トリツィアさんが外に巫女の巡礼をしていた時にやらかして大神殿に問い合わせがきたり……本当にトリツィアさんがいると全く飽きないというか、休む暇もないというか)
そんなことを思いながらもレッティは楽し気に微笑んでいる。
レッティはトリツィアと関わることで、確かに人生が変わった。しなくてもいいことをしなければならなくなったり――色々と面倒なことも舞い込んできている。それでも楽しいと思っていた。
「レッティ様!! さっき、トリツィアさんが――」
そうしてのんびりとしている中で、またトリツィアが何かやらかしたのかレッティの元へと知らせがやってくる。
レッティはそれを聞いて、早速来たなと思いながらその話を聞く。
――今日も今日とて、上級巫女であるレッティはトリツィアのやらかすことに振り回されながらも、そのドーマ大神殿で楽しく過ごしている。




