下級巫女と、女神の寵愛を得ているという少女の話 ⑥
「まずは巫女姫様、分かっていることを纏めますね。一つ目はあの子は女神様の寵愛は得ていないということ。少なくとも女神様は優しい方なので、ああいう風に好き勝手している子は嫌かなって思いますねー。私も女神様の名を勝手に語っているのは嫌だなって思います。二つ目はあの子の力は結構嫌な感じで、神様とかそういうものの力じゃなさそうだなってこと。私は女神様をこの身に降ろしたりしているから分かるのですが、力の分類が違うというか、別物ですよね」
トリツィアは理解が進んでいない様子の巫女姫とオノファノに説明をする。
女神様の寵愛を受けていると噂の少女がトリツィアの目から見てどういうものなのか。
「女神様と実際に関わりはあったりするのでしょうか?」
「んー。ないと思うけど。そのあたりは女神様に聞いてみないと正確には分からないけれど、女神様はこういう子とあんまり関わろうとしないと思うんだよね。それに本当に女神様の声が聞こえるなら注意されそうだしなぁ」
それはあくまでトリツィアの主観でしかない。
が、おそらくそうだろうとは思っている。
「女神様とお話を終えるまでは正確にどうするかというのは決められないけど、どうしようかなぁ。女神様、忙しそうだけどどこかのタイミングで話しかけてみようかなーって思います。あとは、そうですね。私の方であの子に接触をしてみようかなとは思います」
トリツィアは相変わらずにこにこしている。
きっと話しかけて失敗したところで、それはそれと思っているのかもしれない。
「トリツィアさん、話しかけてもらえるのは有難いのですが……周りの男性達が居ないタイミングでいったほうがいいかと」
「どうして?」
巫女姫からの注意にトリツィアは不思議そうな顔をしていた。
(あの女神様に寵愛を受けているとされている子に関しては、どういう力を実際に持っているかが分からないから注意をするのは分かるけれど、周り? ああ、でも確かに権力者ではあるから気を付ける必要はあるんだっけ。でもきっとどうにでも出来るしな)
少女の周りの男性たちは権力という武器はあるものの、それ以外の力は何一つ持ち合わせていないように見えた。
だから、何をどう気を付けるべきなのかと不思議に思っているようだ。
「あの子に近づく者を周りの男性達は警戒しています。彼らにとって特別で大切な少女を傷つける者ばかりが周りにいて、その存在達から守らなければならないと警戒しているのです。だから刺激しすぎると何をしだすかわかりません」
「んー? 興奮状態の魔物とかと同じ感じ?」
「トリツィア、その例えはおかしい」
巫女姫の言葉にトリツィアが不思議そうに声をあげ、そしてその声に対してオノファノが突っ込みを入れる。
権力を持つ見目麗しい男性に関して、そのような例えをする存在など中々居ないだろう。
「だってそうでしょ? 手負いとか、興奮している魔物って私達にとっても予想外のことをしてくるじゃん。そういう魔物を甘く見ると痛い目みちゃうもんね」
「まぁ、それはそう。……最悪権力者の男性怒らせてもどうにでもトリツィアは出来るだろうけど、どこまで対応していいかだな」
オノファノはそう言いながら巫女姫の方を見る。
「トリツィアがあの少女に接触して、あの男たちと関わるなら少なからず無礼な真似はしてしまうと思うんです。それをしても問題ないという許可は巫女姫様の方からしてもらえますか?」
トリツィアとオノファノは物理的な力は持っていても、そういう権力的なものは持ち合わせていない。
トリツィアはそのあたりを考えてはいないだろうが、オノファノはそのあたりをきちんと考えていた。
「そのあたりは許可を出します。上の者達にも許可を得ていますので、安心して行動いただいてください。今回、私が要望を出してトリツィアさんとオノファノさんを呼び出したのでもし彼らと決裂したとしてもどうにでも出来るようにはしておきます。最悪の場合は逃げられるようにもします」
巫女姫は決意に満ちた表情でそう告げる。きっと――それだけの覚悟をもってして此処にいるのだというのが分かる。
巫女姫はトリツィア達に逃げればいいと口にするが、巫女姫自身は逃げる気はないのだろう。それこそ――自分の身が破滅に向かったとしても巫女姫としての責務を全うしようとしている。
「巫女姫様、そんな最悪の事態にはならないように私はどうにでもしますから、そんな顔しないで大丈夫ですよー。というか、巫女姫様がそういう大変なことになるのは私は嫌ですからね。だから、一緒に頑張りましょーね! 私も今の生活が好きだから逃げないで済むようにしますからねー」
トリツィアは巫女姫に関して、そう言って笑いかける。
その様子を見ていると、巫女姫は自分が深く考えているのが馬鹿らしく思えてしまう。それだけの力がトリツィアの笑顔にはある。




