下級巫女と、女神の寵愛を得ているという少女の話 ⑤
「ジュダディ、この宝石を君に」
「君は本当に愛らしいな」
「これだけ素晴らしい力を持ち合わせているなんて、流石だ」
「女神の寵愛とは本当に素晴らしいものだ」
――さて、トリツィアとオノファノの視線の先には、一人の少女とそれを囲う男性達の姿が見える。
ばれないようにひっそりとのぞき込んでいるトリツィアは興味深そうに目を輝かせている。逆にオノファノは呆れたような表情だ。
「わぁ、凄い」
「トリツィア、何を感心しているんだ」
「だって凄いもの。ああいう光景って中々見れるものじゃないでしょ? 女神様がこの場に居たらなーきっと楽しむだろうに」
「女神様からまだ連絡ないのか?」
「うん。女神様も忙しいからね!」
にこにこしながら呑気にそんなことを言うトリツィア。どこまでも彼女はいつも通りである。
「トリツィアさん、オノファノさん……。彼女はどうですか?」
その後ろにいるのは巫女姫であるアドレンダである。
巫女姫は女神の寵愛を受けているという少女――ジュダディのことで頭を悩ませていた。
だからこそトリツィアとオノファノを呼んだわけだ。
「んー。凄いなーっては思うけれど女神様の寵愛を得ているとは違う気がするかなぁ」
トリツィアはそう言いながら、まじまじとジュダディのことを見ている。
見た目は確かに愛らしい。艶のある明るい茶髪の髪が腰まで伸びている。くりくりとした赤色の瞳は、宝石のように煌めく。
背が低いことやその顔立ちから実際の年齢よりも幼く見えるだろう。
それでいて確かにトリツィアは彼女が力を持っていることは分かる。
「女神様の寵愛とは違う?」
「そうですね、女神様の力とは違うなって。なんというか……結構禍々しいというか、嫌な感じするかなーって思いますね」
「嫌な感じ?」
「そうですよー。私が好きなものではないですね!」
そんなことを言いながら、相変わらず興味深そうに少女を見ているトリツィア。
禍々しいとか、嫌な感じとか、そういう感想を抱いているが少女自体に嫌悪感は全くないようである。
そういうところもトリツィアらしいと言える。
「トリツィア、その言い方だと分かりにくい」
「んー。そう?」
「ああ。俺にはあの少女がそういう力を持っているとは全く分からないけれど」
「そっかー。なんか、んー。私は女神様にいつもお祈りしていて、女神様の力って感じやすいんだよね。あと巫女ってそういうのが分かる感じするよね」
「いや、多分それはトリツィアだけだろ」
「そうなの?」
「ああ。トリツィアは巫女生活が長いのに、その辺疎いよな」
そんなことを話しながら、トリツィアは楽しそうな表情である。
トリツィアはそのまま巫女姫の方を向いて、口を開く。
「巫女姫様はあの子を見て、何を感じました?」
「不思議な感覚はします。あとは実際に結界を張ったりや人を癒したりなどは出来てました。それに人を惹きつけるような魅力は確かにあるのかもしれません。ただ私の言うことを聞いてくれようとする気は全くないようですけれど……」
「巫女姫様ってあんまり人のことを悪くは言わないですよね。私もあれだけ人に囲まれているのならば、それだけの魅力はあるのかなと思います。でも女神様の寵愛とは違いますねー。あの子って自分で女神様の寵愛を受けているってそんな風に言っているんですか?」
「そうですね……。自分から言っているはずですが」
「そうなんですねー。なら、やっぱり問題ですね。女神様の名を冠して好き勝手やられるのはちょっと困るなぁと思いますね。女神様もそういうのは好きじゃないと思いますし」
トリツィアはそう言いながら、何か考え込んだような表情だ。
トリツィアは女神様のことを心から慕っている。その存在が困っていることは嫌だとそう思ているのであった。
(とはいえ、ああいうちょっと嫌な感じの力って誰が何のためにあの子に与えたんだろう? 元から産まれながらにああいう力を持っていたら突然こうやって湧いて出てくるって多分ないと思うんだよね。突然何かきっかけがあったとかなのかなー? でもそれだとなんだろう?)
トリツィアは少女のことをちらっと見て、そんなことを考えている。
「なんか女神様っていうか、神様からの綺麗な力ではあんまりないかなって思うんですよね。あの子の力。そうなるとどこからもらったのか気になりますね。ああいう力を纏っていたら色々寄ってきそうですしー。それにマオやジンも私のペットじゃなかったら寄ってきたんじゃないかなって感じはするかな」
トリツィアは、此処にマオとジンを連れてきて居たらどういう反応をしていただろうかなどと思考してみる。
(私がペットにしてない状態だったら、こういう子、取り込みにきそうだったなぁ。うん、そういう子に利用されるか、あの子の方が利用するかのどちらかになるのかな?)
呑気にそんなことを考えるトリツィアのことを巫女姫は真剣なまなざしで見ていたのだった。
なんとも、温度差が激しい。




