下級巫女と、女神の寵愛を得ているという少女の話 ④
「マオとジンも連れて行こうと思ったのになぁ」
「旅行じゃないんだから、流石にあの二匹を連れて行くのは駄目だろ」
「えー? でも折角さ、こうして他国に赴くんだよ? マオとジンも一緒の方が楽しそうだなって思ったのにな」
トリツィアとオノファノは走っている。
……馬車で赴くことを提案もされたものの、走った方が速いという結論に至ったのだ。
神官長も、正式に巫女姫に呼ばれているのだから……と説得したが、結局こうなったわけである。
トリツィアはその道中にペットも連れて行こうとしていたが、それは流石に却下された。
というのもただでさえ女神の寵愛を受けていると噂の少女が様々なことをやらかしている現状だ。そんな中で、魔王や魔神まで顔を出してしまえば大混乱になることが間違いない。
……最もトリツィアからしてみれば女神の寵愛を受けた少女が居ようとも、ペットたちを連れて行こうとも特に変わらないという認識のようだが。
「女神の寵愛を受けている少女って、噂を聞く限りは話を聞かなさそうだよな」
「んー? どうだろ? 話を聞かないとなると、力づくでどうにかしなきゃとかにもなるかなー?」
「だって巫女姫様が何を言おうとも、好き勝手し続けているってことだろ? 明らかに話聞いてない感じじゃないか」
「それもそっかー。私の話、聞いてくれたらいいけどどうだろー?」
トリツィアは何処までものほほんとした雰囲気だ。
彼女からしてみるとそれらのことは全て特に気にすることではないのだろう。
「俺はトリツィアが女神様と親しくしていることも、強いことも知っている。だけれども女神の寵愛を得ていると噂されている段階で俺達で対応をするのは難しい可能性もあるだろう?」
「んー。まぁ、それもそうかも。そういう感じだったら流石に女神様に助けてもらうことになっちゃうかも。でもなんか基本は私でもどうにか出来るかなーって。女神様に頼りすぎるのも違うしね」
トリツィアはそんなことを言いながら、能天気だ。
オノファノに関しては世間から女神に寵愛されていると噂されている少女のことを少し懸念しているのだろう。
「トリツィアはあんまり女神様に頼ろうとはしないよな。俺にも女神様と親しくしていることをずっと言ってなかったし」
「必要なければ特に言わないよ。言いふらしたら面倒なことになりそうな予感しかなもん。それで下手に女神様が近づきやすいとか勘違いされて迷惑をかけたくもないしね」
トリツィアがそう言って笑えば、オノファノも笑った。
(本当にトリツィアらしい。誰かの力を当てにしないというか、そういう性格のトリツィアだからこそ俺は好きだと思うし、女神様だって好ましく思っているのだろう。……その女神の寵愛を受けていると噂の存在がトリツィアに何かするようなら、俺は許さない。女神様だってきっとそうだろう。ないだろうけれど、万が一……女神様がトリツィアのことを疎むようになったとしても、俺はトリツィアの味方をするだろう)
彼は今回の一件に、そんなことを考える。
トリツィアは圧倒的な力を持っていて、女神様と親しくしている。だけれどもその状況が一生涯続くかどうかは分からないことではある。
ただもしそういうことが起こってしまったとしても自分だけはトリツィアの味方でいようとそう考えている。
例えばそれで大神殿と敵対することになったとしても、神を敵に回すような可能性があったとしても――それでもオノファノはそう思っている。
「それにしても男性に近づくタイプだと、オノファノも近づかれちゃう?」
「……俺はその少女には興味ない」
そう言いながら、自分が興味がある女の子はトリツィアだけなのになどと一人考える。
オノファノはその年にして、大神殿に仕えている優秀な騎士である。それでいて見た目も悪くない。その寵愛を得ている存在がオノファノに目をつけないとは限らない。
「ふぅん。そっかぁー」
「少し嬉しそうだな?」
「んー。だってオノファノがその子に惚れちゃったら、私の護衛騎士じゃなくなるかもってことでしょ? それって少し寂しいもん」
トリツィアには他意はないだろう。
ただ単に、幼なじみである少年が離れていくのは嫌だなと無邪気に考えているだけだ。
オノファノはそんなトリツィアの性格を理解している。そこに恋愛感情のれの字もきっとないだろうことも。それでも――トリツィアが自分のことを少なからず大切に思っていてくれていることは彼にとっては嬉しいことだ。
「トリツィアに本気で嫌がられない限りは、俺は傍にいるつもりだ」
「あははっ、私はオノファノといるの楽しいし、嫌がったりはきっとしないよ?」
「なら、良かった」
「オノファノこそ、私の事が嫌だってなったらちゃんと周りに言ってね? あと、なおせるところはなおすよ?」
トリツィアにそんなことを言われて、オノファノは呆れたように頷くのであった。




