下級巫女と、女神の寵愛を得ているという少女の話 ③
「オノファノ、巫女姫様からの手紙読んでみてー」
「……トリツィア宛だろ? 俺が読んでいいのか?」
「うん!!」
トリツィアは巫女姫から届いた手紙をオノファノへと差し出している。
元気よく頷くトリツィアを前に、オノファノは手紙を受け取り、中身を読む。
そうしているうちに彼の表情は怪訝なものへと変わっていった。
「女神様の寵愛を得ていると言っている少女が好き勝手している……?」
「うん。そうらしいよー。女神様の寵愛を得ている子が各国の要人たちと仲良くしているっぽいね」
「なんだ、それ。一国の要人たちに近づくだけでも大問題だと思うけれど、各国の……?」
「うん。女神様の言っている逆ハーレム的なものかな? 凄いよねー」
「というか、手紙見た限り恋愛感情持たれているのか?」
「っぽいね。それだけ多くの人達に好かれるって魅力的ってことだよね。凄いね」
そう、その手紙の内容は女神の寵愛を得ていると噂されている少女が各国の要人たちを魅了しているということ。
トリツィアは一人の女性に男性達が集まる様子というのを女神様から聞いて知っている。
(女神様が人間だった頃に読んでいた漫画でそういうのがあったって言ってたよね。逆ハーレムって言うんだよね。そういう状況が現実でも起きているって不思議だなぁ。それにしてもただ好かれているだけっていうなら別に何の問題もないと思うけれど、巫女姫様がこんな手紙をくれるってことはかなりやらかしている?)
トリツィアはのほほんとしている。正直、至急の手紙が届いたとしても何がそこまで問題なのだろうとよく分かっていない。
「トリツィアは本当に呑気だなぁ……。そういう人たちだと普通に婚約者がいるだろう。そういう相手がいるのに他の異性にそういう感情を抱いているだけでも問題だろ。あとその女神の寵愛を得ている少女っていうのは元々平民なんだろう? だったらそれだけ問題にはなるだろう」
「そっかー。あれ、でも勝手に恋愛感情を抱かれているだけなら別に問題なさそうだけどなぁ。女神様の声が聞けるなら問題あるなら止めそうなのにな」
「……実際に女神様の声がトリツィアみたいに聞けるか分からないだろ」
「えー? それって女神様の声が聞けないのに、女神様から寵愛を得ているって勝手に言っているってこと?」
トリツィアはオノファノの言葉に不思議そうな表情を浮かべる。女神様に対して厚い信仰心を抱いているトリツィアからすると、そんな風に語るのはよく分からないなと思っているようである。
どこまでも能天気な彼女を見て、オノファノは思わず笑う。
「本当にトリツィアらしいな。女神様からそういう寵愛を受けているかの判断って普通は簡単には出来ないだろ。トリツィアは実際に女神様と関わりがあるから別だろうけれど」
「でもなんか巫女姫様からの手紙を見る限りは何かしら女神様の寵愛を受けているって思えるようなことがありそうなんだよね。流石に何の力もなかったらそういう存在じゃないってすぐわかりそうだし」
彼女はそう口にする。
巫女姫アドレンダも若いながらにその立場を全うしている存在だ。だからこそ無力な少女をそういう存在とは断定はしないだろう。幾ら各国の要人たちが特別視していたとしても、巫女姫のいる総本殿の意見は重要視されるはずだ。
「ふぅん。女神様はなんて?」
「その子の話聞いてから女神様とまだ話してないから分かんないかなー。女神様も忙しいからね。ずっと私達人のことを見ているわけにもいかないしなぁ」
流石にトリツィアから何度も呼びかければ答えてくれるかもしれないが、女神様の手を煩わせたくないとも彼女は思っているのである。
「私なら女神様の寵愛を本当に得ているかとか分かるんじゃないかーって。巫女姫様はその子の扱いでちょっと大変みたいだね。本当に女神様の寵愛を得ていても人に迷惑かけまくりは困るよね。女神様の評判が下がるようなことをされているのは困るなって思うんだよね」
彼女は女神様を心から大切に思っている。だから、人の些細な行動で女神様の評判が下がるようなことがあるのは嫌だと思っている。それは信仰対象としてもそうであるし、友人としてもそうである。
女神の寵愛を得ているということは、その名を冠しているということ。その行動一つ一つが女神への評判につながっていく可能性が高い。
「ってことは、そいつに会いにいくか?」
「うん。巫女姫様にも一回来てほしいって言われてるしね。あとは女神様と本当は関わりがないっていうなら、そういう嘘はついたら駄目だよっていうのをちゃんと示さないといけないもん。各国の要人に好かれているとかは正直どうでもいいけれど、女神様の名を騙っているっていうのならば私は巫女としてちゃんと確認しないといけないからね」
トリツィアはオノファノの言葉にそう言って笑うのだった。




