下級巫女と、女神の寵愛を得ているという少女の話 ②
トリツィアがペットたちと楽しく過ごしながら、いつも通り過ごしている中で大神殿内は何処か騒がしくなっていた。
「――ですって」
「まぁ、本当に?」
大神殿内で暮らしている者達の声は明るい。どこか弾んだような声に、トリツィアは反応を示す。
「何かあったんですかー?」
トリツィアがそう言いながら近づくと、巫女達は明るい笑顔で理由を告げる。
「女神の寵愛を得たという少女が現れたのですって」
「トリツィアさんは何かご存じではないの?」
そんなことを突然言われてトリツィアは驚いたように目を見開く。
その巫女達も特別な力を持つトリツィアならばその存在について知っているのではないかと思ったらしい。しかしトリツィアはそんな少女の話を知らなかった。
トリツィアは不思議そうな顔をしている。
「どうやらソーニミア神の寵愛を受けているのですって」
「トリツィアさんはソーニミア様のことを熱心に信仰しているものね。何か神託などはないのかしら?」
そう問いかける彼女達には悪気などは全くない。
というのも彼女たちはトリツィアの異常さを十分に理解しており、トリツィアならば……と思っていたのだろう。
「んー。私は何も聞いてないですねー。そうなんだー」
トリツィアはそう答えて、一瞬考え込むような素振りを見せる。
「教えてくれてありがとうございます」
トリツィアは年上の巫女達に向かってそう言ったかと思うと、その場を後にする。
(女神様の寵愛かぁ。そういう人が現れたって話は少なくとも女神様本人は言ってなかったけど……。そういう人が出来たなら女神様は私に軽く何か話したりぐらいはしそうなのになぁ。確か前にオノファノと一緒に出張に行った時に神の軌跡の気配は感じたんだよね。もしかしたらその時の子かなー? それとも別?)
そんなことを考えながら、せっせと掃除をしたり、大神殿にやってきた民間人たちの対応をしたり――トリツィアはいつも通り下級巫女として過ごしている。
(『ウテナ』の子たちとか、マオ達の配下の子たちに聞いてみてもいいかな。そしたらその女神の寵愛を得ているらしい人の情報手に入るかな? 本当に女神様が仲良くしているよーって子なら仲良くしたいんだけどなぁ。本当にその子がいるとしてどんな子なんだろう?)
トリツィアはそんなことを思考していると、楽しくなってしまったのか鼻歌を歌っている。
ご機嫌な様子のトリツィアは女神の寵愛のことを考えている。
(どんな子なのだろうって考えるとワクワクするよね。でもよく考えてみたらどうやって女神様の寵愛を得ているってその子は分かったんだろう? 神託でも下ったのかな?)
そういう特別な存在が見つかるのは、神託が下って見つけられるか、本人から大神殿側に赴くかのどちらかだろう。そうでなければ誰にも知られることなくひっそりと生きていくだけだ。
わざわざ自分が女神の寵愛を得たということを大々的に言うということはそういう性格であるのか、それとも何かしら女神からの神託を受けて表舞台に出る必要があるのかのどちらかだろう。
現在の穏やかな日常を愛しているトリツィアは、幾ら女神と親しくしていようともそれを表立って言おうとは思わない。
(目立ちたいタイプの人達なのかもしれないね。ちょっと話してみたいなと思うけれど、私にも同じようなことを強要してくるとしたら嫌だなぁ。接触するなら女神様にその子がどういう性格なのかを聞いてからがいいかもねー)
そんなことを思考しながら、トリツィアはマオとジンの元へと向かう。
すやすやと昼寝をしていたマオとジンは、トリツィアの訪問に目を覚ます。
「女神の寵愛を受けているって噂の子がいるんだってー。マオとジンはどういう子だと思う?」
にこにこしながら、トリツィアはマオとジンの頭を撫でまわしている。
マオとジンは何を言っているんだとでもいうような表情である。
「女神の寵愛って、それを得ているのはご主人様では?」
「なぜ、主以外の者がそんなことを言われている?」
トリツィアという少女の異常さをペットとして十分に理解している。それでいて二匹とも、自分たちの飼い主こそが一番だとそう思っているのだろう。
なぜ、トリツィアではなく別の存在が女神の寵愛を受けているなどと噂になっているのかと怪訝そうな顔をしている。
「なんでそんな喧嘩腰なの? 別に私以外の子がそういう風に言われているとしてもそういうものだよ? 突然そういう子が現れたーって噂になっているみたい。私は女神様からその子の話を聞いていないから、どういう子なのかなって気になっているだけだよ?」
トリツィアはそう言って、マオとジンのことをなだめている。
(本当に女神様の寵愛を受けているにしても、どういう神託が下りてるのかな? マオとジン関係ではないと思うけれど、何かしら問題でも起きているのかな)
そんなことをのんびりと考えているトリツィアの元へ、巫女姫から至急の手紙が届いたのはそれから少し経ってのことであった。




