下級巫女と、女神の寵愛を得ているという少女の話 ①
「ふんふんふ~ん」
嬉しそうに歌を口ずさみながら、トリツィアは大神殿内を歩いている。
彼女はいつでも楽しそうである。ただの下級巫女としての日常がトリツィアにとっては充実した日々なのだ。
『トリツィア、今日もご機嫌ね』
(あ、女神様、おはようございまーす!! 楽しいですよ。そういえばプレゼントしたもの、どうですか?)
『もちろん、身に着けているわ。トリツィアがくれたものだもの』
(ありがとうございます。女神様が身に着けてくれていると思うと、嬉しくて仕方ないです!!)
『トリツィアは可愛いわね。私があなたからのプレゼントを大切にするのは当たり前でしょう。こうやって私個人に、友人から何かをもらえるのって嬉しいわ』
(女神様、信者の人達から沢山色々もらってますよねー?)
『それは貢物だから、トリツィアからもらうものだとより一層特別だなと思うのよ』
(そっかー。またプレゼントできそうなものがあったら何もない日でも渡しますねー)
『ふふっ。ありがとう、トリツィア』
今日も今日とて、トリツィアは女神様と会話を交わしている。
こうして日常の合間で時折、トリツィアに話しかける女神様。
彼女に話しかけるその声は何処までも楽しそうで、軽やかだ。
『そういえば、魔王や魔神の配下たちも貴方の下についたのでしょう? トリツィアの下に彼らがつくのならば一安心ね』
(暴走とかしないようにちゃんと面倒は見ますねー。私のペットたちを慕っている人たちだから、悪いことしないように見ておかないと!)
『ふふっ、本当にそういう言い回しがトリツィアらしくていいわね。貴方の人生が終わった後も、彼らは生きるでしょうけれど貴方の影響で大人しく過ごすと思うのよね』
(まぁ、変なことはしないように私は縛るつもりではありますけどー。どうですかね? マオとジンがこういう穏やかな日々が好きだなって心から思ってくれて、のんびりした日常送ってくれればいいなーって思いますよ。私が寿命を迎えた後も、幸せに生きてくれればうれしいですよね!)
トリツィアはマオとジンの将来のことを、ただ漠然とそんな風に考えている。
彼女はどれだけ力を持ち合わせていようと、人間である。だからこそ、彼女の寿命はそのうち訪れる。
そしてその寿命が尽きた後も――彼女のペットたちは生き続けるのだ。そしてそのペットの配下たちに関しても同様だろう。
『ふふ。本当にトリツィアらしいわ。今日はトリツィアはどうやって過ごす予定なの?』
(そうですねー。今日はアニソンの練習とかしますよ。ほら、この前、女神様から教わったものを練習しようかなーって)
『そうなのね。なら今度聞かせてもらうのを楽しみにしているわ』
(もちろんです。女神様は、今日はどうするんですかー?)
『信者達の様子を見て回る予定よ。何か異変があるか確認はしておこうと思っているから。あとは他の神様達に誘われていることもあるから、その誘いに乗ってもいいし。クドンと一緒にのんびり過ごしてもいいし、どうしようかしら』
楽し気な様子の女神様の声を聞いて、トリツィアは笑う。
周囲からしてみるとトリツィアが女神様と脳内で会話をしていることは知らないので、ただ突然顔をにやけさせているように見えるだろう。
女神様はよくトリツィアに構いにはきているが、この世界の神としての役割をきちんとこなしている。
(いいですねー。女神様はクドン様と仲良しですよね)
『夫婦だもの。クドンと一緒に過ごしていると、とても穏やかな気持ちでいっぱいになるわ』
(とても素敵ですね!! 女神様が幸せそうで、私は嬉しいですよー)
『ありがとう。トリツィア』
そんな会話を交わした後、女神様は『じゃあね、トリツィア。また話しかけに来るわ』とそう言っていなくなっていった。
(女神様はクドン様と本当に仲が良さそうだなぁ。クドン様も女神様のことを大切になさっているし、うんうん。いい事だよねー。というか、マオとジンもいつかそういう相手を作ったりするのかな? そういう相手がいた方が幸せでいいことな気がするけれど。長生きはしているはずだけど、今までそういう相手いなかったのかな? ちょっと聞いてみよう)
トリツィアは女神様から夫婦の話を聞いたため、そんなことが気になったようだ。
そういうわけでその足でマオとジンの元へと向かう。大人しくペット生活を謳歌している二匹にそういう相手がいたことがあるのかと問いかけるトリツィアであった。
「……過去にはいたが」
「我も」
「えー。そうなんだ。どういう人だったの?」
過去にはそういう相手はいたというのを二匹から聞いて、興味津々のトリツィア。
力関係は彼女の方が圧倒的に上であるため、結局マオとジンはぺらぺらとその情報を話してしまうこととなった。
「なるほどー。話してくれてありがとう」
そしてそのマオとジンのこれまでの恋愛話を聞いたトリツィアは楽しそうに、にこにこと笑うのだった。




