魔族が暴れているらしい ⑧
「……我の配下が来たんですか。え」
「マオ、なんて顔してるのー? マオのことを慕っているから来ただけだし、あんまり怒らないであげてね?」
「……ご、ご主人様。何をどう説明をしたのですか?」
「普通に説明しただけだよ?」
そんな風に軽く言われて、マオは苦虫をかみつぶしたような表情を浮かべた。
正直言って自分を慕う者達の前で、ペット生活をしていることなど知られたくないというのが本音である。
しかしそんな気持ちはトリツィアには理解されないだろうことはマオには十分に分かっている。
「……そうですか」
「うん。それにしてもマオは沢山の人達に慕われてるんだねー。魔王として悪いことをしてはいたんだろうけれど、そうやって沢山の人に好かれるっていいことだからね。これからは悪い事しちゃだめだよ? したら私がマオのことをどうにかしなきゃになるからね?」
トリツィアはそう言って笑いながら、わしゃわしゃと犬の姿のマオのことを撫でまわす。
撫でられてマオは気持ちよさそうに目を細める。そしてはっとした様子を見せる。
「分かっておる」
マオはトリツィアの言葉に頷く。それを聞いてトリツィアはにこにこと笑っている。
マオが聞き分けが良いことが嬉しいのだろう。
「ジンはどう?」
「……我の方はそこまでおらぬ。それに対応もさっさとしているので問題はない」
「ふぅん。そっか。ならよかった。ジンももし困ったことがあったら私に言うのよ?」
にこにこと慈愛に満ちた笑みを浮かべて、そう告げるトリツィアにジンは何とも言えない表情を浮かべる。
(主はやはり、色々と感覚がおかしい。我やマオの正体を知っているのならば、そういう態度が出来るものではない。……まるで我のことを心配しているようだ。いや、実際にしているのか。魔神である我のことをそのように心配する必要など全くないのに……)
そう、トリツィアの目に心配が浮かんでいることをジンは理解している。
幾らペット扱いをしているとはいえ、魔神である。人々を恐怖に追いやる存在。そうでなかったとしても――周りに危害を加えるような恐ろしい力を持ち合わせているのは事実である。
それでもトリツィアにとってはそんなことはどうでもいいと、そう思っているのだろう。
「我を心配する必要はないが」
「んー? 私のペットなんだから、心配をするのは当然だよ? ペットの責任は飼い主が持つべきものなんだから。だからジンはね、もっとペットとして私に対して甘えていいんだよ?」
「……甘える?」
「うん。だってジンは魔神だったとしても、今は私のペットなんだから。困ったこととかあったら相談してくれたらいいし、私は私のペットを虐めるような人が居たらどうにでもするよ?」
言うことにかいて、虐められたら言うんだよである。
相手が魔神だと知っている相手への言葉だとは間違っても思わないだろう。か弱い自分のペットに対する言葉のようである。
頭に手を伸ばし、わしゃわしゃと撫で、優しい笑みを浮かべるトリツィア。
「……我は虐められることなど何もないが。それにそんなことがあっても自分の手でどうにでもする」
「そうはいってもジンよりも強い存在がジンを虐めるかもしれないでしょ? それに力では押し切れない困ることとかもあるかもしれないし。そう考えたらちゃんと困ったら言ってねって思うから」
普通に考えれば魔神を虐めるなどありえないが、あくまでもトリツィアは本気である。
トリツィアの言葉を聞いて、ジンはその言葉を受け入れるのであった。
それからの話をすると、マオとジンの配下の者達がトリツィアに接触してきたりすることになった。
トリツィアはそれに対して、にこにこしながら対応を進めていった。トリツィアからしてみると、自分の可愛がっているペットのためならそのくらいの対応は別に構わないと思っているのである。
トリツィアは暴れている魔族たちに対して、人族を襲ったりするのはやめるように言い聞かせている。彼らはマオとジンをそれぞれ崇拝しているため、基本的にトリツィアの言うことも聞いてくれている。
ただし中にはトリツィアに対して懐疑的な存在も当然おり、トリツィアの力を試したいという者もそれなりに多くいた。
「んー? まぁ、いいよ。全員、かかってきて?」
トリツィアはそんな彼らににっこりとほほ笑み、全員と模擬戦を行っていた。トリツィアは歴戦の魔族たち相手でも負けることはなかった。全員を徹底的に負かし、結果として彼らはトリツィアに対しても絶対服従になった。
……流石に彼らもマオとジンが大人しくペット生活をしていることには驚いていたが、本人たちが受け入れているので気にしないことにしたらしい。
そういうわけで各地で暴れていた魔族たちの動きは収束していき、それらは全員トリツィアの配下へと下ることになった。……ただし、それを認めない物に関しては命を奪われるか、閉じ込められる結果になったわけだが。
それらの報告を聞いた巫女姫は「トリツィアさんは本当に凄いわ……」と驚くのであった。




