魔族が暴れているらしい ⑥
「マオとジン、忙しそうだねー」
「……そんなに沢山、魔王と魔神の信者っているものなのかな」
「私が女神様を信仰しているみたいな感覚でマオとジンのことを信仰しているのかなー」
にこにこしながら、トリツィアはそんなことを言う。
オノファノは何とも言えない表情を浮かべている。
トリツィアとオノファノは、大神殿でのんびりと会話を交わしている。二人とも相変わらずのマイペースである。
自分達のペットであるマオとジンが暴れている者達を押さえつけるために行動を起こしている。そのため、最近はトリツィア達の傍にいないことが多い。
大神殿の者達は、最近、ペットたちの姿が見えないことを気にしていた。とはいえ、トリツィアから「ちょっと用事があるからいないんだよー」と笑顔でこたえられるとそれ以上聞けなかった。
彼らはトリツィアのペットであるマオとジンのことを可愛がっている。だけれどもあのトリツィアがわざわざペットにして可愛がっている存在であり、時折散歩と称して危険な場所にまで連れ歩いているのだ。
そんな存在が普通なわけはない。
彼らからしてみると、下手につつくと余計な情報を知ってしまうというのを理解している。
だから、余計なことは問いかけずに平然と過ごしている様子である。
「信仰か。マオとジンのことを信仰対象と思っているって不思議だな。全然気持ちが分からない」
「私もちょっと分からないけれど、マオとかジンってそれだけ凄い子なんだよね、きっと。その凄い部分を平和的に使ってくれるのが一番いいよね」
「それはそう。マオとジンがトリツィアのペットにならずに暴れていたら大変なことになっていただろうしな」
「その点はよかったよね。ペットになってくれなかったらずっと閉じ込めておくか、命を奪うかしなきゃだっただろうし」
「トリツィアなら簡単にあいつらどうにでも出来るだろうしな」
「それにしてもマオとジン、いつ頃帰ってくるかなー? いい子に出来ているかな?」
トリツィアは純粋にマオとジンのことを心配している様子である。相手は魔王と魔神なのであるが、トリツィアからしてみれば無事に帰ってくるだろうか、何か不測の事態が起こっていないかと心配で仕方がないようだ。
当たり前のように魔王と魔神を心配しているあたり、彼女らしいと言えるだろう。
「寧ろトリツィアが傍にいないからって羽目を外していたらどうするんだ?」
「その時は飼い主としてきちんとご迷惑かけた人たちに挨拶しないとだよ。それでちゃんと躾するよ。でもそうかぁー。私、そんなことはマオとジンはあんまりしないかなーって思ってたかな」
「縛りがあるから?」
「まぁ、それもあるけれどマオとジンって結局ペット生活気に入ってそうだもん」
さらりとトリツィアはそう言いながら、突然、跳躍する。
そして上空を飛んでいた透明の何かをがしっと掴んだ。
「ひぃいいい」
人語を話し、悲鳴をあげるそのその透明の何かはトリツィアが思いっきり投げつけると姿を現わした。
それはリスのような生物である。トリツィアはぷるぷる震えるそのリスのような生物に近づく。にこにこと笑みを浮かべながらじっと見つめてくるトリツィアにその生物は逃げ出そうとする。
しかし、逃げ出したその生物をやすやすと逃がすようなトリツィアとオノファノではない。
即座に結界を展開させ、その生物を閉じ込める。
「それにしても使い魔の身体で喋らせられるなんて結構強い術者みたいだねー? どうしてこちらを探っているの?」
「……ひ、ひぃいいい」
「そんなに怯えなくていいんだよ? 私はちゃんと質問に答えてもらえたら解放するよ? いつもの大神殿を悪意を持って探りに来た人たちとはまた違うみたいだし」
不思議そうにそう言って、トリツィアはその生物をじっと見つめる。オノファノはその一連の流れを見守っているだけである。本当にトリツィアにとって害があるのならば排除するだろうが、この程度、トリツィアの害にはならないと知っているのだ。
「え、えええと」
「うん。なあに?」
「……ええっと、わ、私は」
「うんうん。誰なの?」
慌てたような女性の声に、トリツィアは穏やかに微笑んで相槌を打つ。
「ま、魔王様の配下です」
「おー、なるほど? それで?」
「え、えっと、先日お会いした魔王様が……こ、この大神殿の何かと繋がっていることが見受けられたので、か、確認しに来ました! そ、そしたら貴方みたいで、それでどうしてって思って。まさか、貴方は魔王様の恋び――」
その女性はあらぬ疑いをトリツィアに向けているらしい。トリツィアは何を言われようとしているか理解していないようだ。すかさず口を女性の声が言い終わる前に口を開いたのはオノファノである。
「そんなことは絶対にないから、変なことを言わないように」
「え、でも――魔王様と」
「貴方が思っているようなことでは全くない。トリツィアに変なことを吹き込んだら許さない」
殺気立った視線をオノファノから向けられ、そのリスのような生物は固まるのだった。
トリツィアは女性の声が何を言おうとしたか理解していないようでよく分からないといった表情をしていた。




