魔族が暴れているらしい ①
「ふんふんふ~ん」
今日も今日とて、トリツィアはご機嫌な様子で鼻歌を歌っている。今、彼女が何をしているかと言えば、マオとジンの散歩である。歩いているのは険しい山道。
……そんな場所を散歩コースにするなと突っ込まれそうな場所を軽い足取りで歩いている。
途中で遭遇した魔物のことは、それぞれですぐに対応を済ませる。
「マオ、ジン、あの木のみ美味しいんだよ」
途中でふと見かけた水色の実。トリツィアはそれを以前食べたことがあり、美味しかったと記憶しているため目を輝かせている。
無造作にその実に手を伸ばすと、その瞬間、何かがトリツィアに襲い掛かる。
それは飛行していた鳥型の魔物である。気づけば何匹もが、トリツィアに冷たいまなざしを向けている。もしかしたらトリツィアが採取しようとした果物を自分達のものだと認識しているのかもしれない。
「ちょっともらいたいだけだよ? 駄目なの?」
トリツィアは一瞬不満そうな顔をする。だけど、別にその魔物達を無理やり排除してまで食べようと思っているわけではないので、その実を取るのを諦めようとする。
だけど魔物達は既にトリツィアのことを敵認定したのか、そこで引くつもりは魔物達側にはなかったらしい。
「んー、襲い掛かってくるなら仕方ないか」
トリツィアはそう呟いたかと思えば、その魔物達を結果として排除することにした。気まぐれな彼女の手によって、魔物達は狩られていった。
「主よ、結局狩るのか」
「その実はそんなに美味しいのか?」
ジンとマオがそれぞれ口を開く。トリツィアはそんな彼らににこにこと笑いかける。
「美味しいよ。ほら、食べてみて」
そう言いながらもぎ取ってきた実をそのままジンとマオの口元へと差し出す。彼らはそれを口にする。そうすると、その表情が変わった。
「これは美味しいな」
「もっと食べたい!!」
そう口にする二匹に、トリツィアはにこにこと笑っている。自分のお気に入りのものをペットたちも気に入っているというのが嬉しいのだろう。自身も実にそのままかぶりついている。
「この実、あんまり見かけないんだよねー。持って帰ろう。女神様とかオノファノにあげようかなぁ」
そう言ったかと思えば、トリツィアはその実をとり、袋へと詰め込んでいく。
ちなみにこの場にはオノファノの姿はない。ちょっとした散歩だからと、一人で赴いているのである。オノファノはトリツィアの護衛が第一だが、騎士としての訓練など色々やることがあるのだ。
(確か最初にこの実を食べたのは、巫女になる前だっけ? 村の近くの森にあったんだよねぇ。でも確かそこにも魔物がいたかも? 殴ったらいなくなった記憶があるけれど……)
トリツィアがそれを食べたのは、大分前のことである。少なくとも巫女になってからは見たこともなかったし、食べてもいなかった。
(もしかしたら珍しいものだったりするのかな? 大神殿に戻ったら聞いてみようかな)
彼女はそんなことを考えながらほくほく顔である。
基本的に彼女はどういう場面でも、楽しそうだ。こういう美味しい実を見つけたという小さなことでも幸せを感じられるのがトリツィアである。
「マオ、ジン。もしかしたらこの周辺には美味しいものが多くあるかもしれないから、探して帰ろう!」
決定事項だとでもいう風に彼女が笑いかければ、マオとジンは当然逆らうことも出来ないのでついていくほかない。
結局トリツィアはその山で色んなものを見つけた。
何度か足を踏み入れたことはあったものの、これだけ豊富な食材があることはトリツィアは把握していなかった。たまたま今回、彼女の興味を引くものを沢山見つけられただけかもしれないが――トリツィアはとても楽しそうである。
……その山には貴重な資源のようなものもあったりするのだが、トリツィアはそういうものそっちのけで美味しいものを探していた。きっとそれらを見つければ前回の石のように商売になるだろうが、彼女にとってはそれよりも美味しいもの優先であった。
例えば魔物達が美味しそうに食べている植物を見かければ自分でも食べてみたり、見たことのない果実を見かければ採取してみたり――自由気ままに彼女は動き回った。
その後、彼女が大神殿に戻った時にあまりにも大荷物だったため注目を浴びていた。
「トリツィア、散歩に行っていたんだろう。なんでそんなに持ち帰っているんだ? マオとジンまで、荷物持ってるし」
オノファノはそう言いながらトリツィアと、その後ろにいるマオとジンを見る。……彼女が見つけてきたものは、大量だった。だからマオとジンにも結果として持たせることになったのだ。
「美味しいもの見つけたから持って帰ってきたの! オノファノにもあげるね」
「ああ。ありがとう」
突っ込みどころは満載だが、一先ずお礼を言うオノファノであった。
さて、トリツィアとオノファノがそんな会話を交わしていると、バタバタとその場に駆け込んでくる神官の姿があった。
「トリツィアさん!! 神官長がお呼びです」
彼は慌てた様子でそう言った。
トリツィアは「何の用だろう?」と首をかしげながらも、マオとジンをオノファノに預けてから、神官長の元へと向かうのだった。




