下級巫女は、周りの人々の度肝を抜く ⑦
女神様からトリツィア達が教わったアニソンは、ひそかに大神殿内の一部には伝えられている。
大神殿で暮らす者達はトリツィアのことをよく知っている。昔から突拍子もない行動を起こし、驚くべき力を持ち合わせていることを分かっている。
そういうトリツィアがわざわざ練習をしてお披露目などを行ったことなので、何かあると思い至った者は当然いる。
まさか、女神様から直々に教えてもらったものだとは思ってもいないだろうが……。
そういうわけでひそかに地球のアニソンが広まりつつあるわけである。
……後々、アニソンが知る人ぞ知る者になっていくわけだが、まぁ、そんなことは今のトリツィア達は知らない。
「オノファノ、見て、これ、綺麗じゃない?」
「綺麗だけど、何処から持ってきた?」
トリツィアがその日、オノファノににこにこしながら見せたのはキラキラと光り輝く一つの石である。あまり見たことのないそれを前にオノファノは疑問を口にする。
「街の近くの森の中に湖あるでしょ。そこの奥底にあったの」
「……他にもあったのか?」
「うん。結構あったよ。奥まったところでね、なんか横穴みたいなのがあってその先にあったの!」
トリツィアは元気よくそんなことを答える。
オノファノはその言葉を聞いて、思考を巡らせる。
(……明らかに価値のあるものなんだよな。確かにこの前、トリツィアは森で遊んでいたけれど、そこでこんなものを拾ってきたのか。一旦、神官長に相談しておくべきか?)
オノファノはそんなことを思考している。
トリツィアはいつも能天気で、あまり深い事を考えていない。なので周りへの影響などについて考え、行動してるのはいつもオノファノなどの周りにいる人物である。
価値のある石――それがどういう効果を持つものかなどは分からないが、それでも何かしらの騒動の種にはなるだろうということは想像が出来た。
そもそも美しい石というだけでも装飾品などに使える。それでいて何かしらの効能を持つ可能性もある。
第一、普通ではないトリツィアが見つけてきたものなので絶対に何かしら特別な要素がありそうだとオノファノは思っているようである。
「トリツィア、一旦、その石について神官長に相談しにいこう」
「相談した方がいい?」
「した方がいい気がする……。何かしら売り物になりそうなら、ルクルィア達に回してもいいし、確認はしておくべきだと思う。後から面倒なことになるのも嫌だろ?」
「うん。面倒なことになるのは嫌かも。じゃあ神官長に言ってくる」
「待て、俺も行く」
そのまま神官長の元へと向かうトリツィア。その後ろをオノファノもついていく。
神官長室の扉をノックすると、すぐに「入っていい」と返事が返ってくる。
トリツィアとオノファノが姿を現わせば、また何か起こしたのではないかと……イドブは心配でならなくなった。
トリツィアもオノファノも普通とは言い難く、何かしら騒動を引き起こすのでイドブは気が気でなかった。
「どうした?」
おそるおそる問いかけるイドブに、トリツィアは笑みを浮かべて石を差し出す。
「森の湖の底にこの石があったんです。それでオノファノに見せたら、神官長に相談した方がいいんじゃないかって言われたのできました」
「……そうか」
頷きながらイドブはオノファノの方を見る。
「トリツィアが言うにはこの石は大量に湖の底にあったそうです。トリツィアが見つけてきたものなので、普通のものではない気はしています。珍しいものならそれだけ騒動の種にはなるので、報告をしにきました」
「なるほど……確かに、トリツィアが見つけてきたものならそうかもしれないな」
まだトリツィアだけしか取りに行けないものだとか、数が少ないなどだったら別だった。
その石は湖の魔物の危険性はあるとはいえ、誰でも取りに行ける場所に存在しているのだ。だからこそ、オノファノは先のことを見越して心配していた。
「神官長、これって売れるんですかね? 売れるなら家族に頼んで売ってもらおうかなって思うんですけど」
「まずはこの石がどういったものなのかを調べる必要があるから少し待て。ただの綺麗な石だったとしても売れるとは思うが……特別な効果があるならもっと高値で売れる」
イドブからしてみても、正規の手続きをして商売が出来るならそれはそれで良いことである。もしこの石が売り物として大きな価値があるのならば大神殿が潤うことになるだろう。
「はーい。じゃあ、調べるのお願いしますね! 売るのなら家族に頼みます!」
トリツィアはそれだけ言って、「じゃあ、私行きますね」とそのまま神官長室を慌ただしく去っていく。その後ろをオノファノも追っていった。
イドブはトリツィアに渡された石を見ながら、昔の自分ならこれで私腹を肥やそうとしただろうなと考える。
今のイドブは真っ当な神官長をやっているため、そんなことは行わないが……昔なら、トリツィアを利用して権利と売上を独占したことだろう。
最もそんなことをすればただでは済まない事は分かっているので、当然、今はやらないが。
「まずは……」
そしてイドブは石について調べることが出来、信頼できる相手と連絡を取ることにするのだった。




