下級巫女は、周りの人々の度肝を抜く ⑤
「女神様がアニソンの歌詞とか聞かせてくれたから、教えるねー。一緒に歌おう!」
「……女神様、今この場を見てるのか?」
「うん。女神様はね、私とオノファノ二人で歌っている歌を聞きたいんだって」
トリツィアがにこにこと笑って告げた言葉に、オノファノは当然、あきれた様子を見せる。普通に考えて、今、この場で女神様から返答が来ている時点で色々とおかしい。
ただオノファノはトリツィアの特異性にすっかり慣れているためか、なんとか突っ込みを抑えて飲みこんだ。
トリツィアが言うのならば、そういうものなんだろうなと思ったのである。
「そうか」
「うん。だから、ほら、一緒に練習しようよ。女神様はすぐに聞きたがっているけれど、ちゃんと準備した方がいいからねー。今すぐだと女神様に見せるのに相応しくなさそうだし」
「……女神様、ずっと見てるのか?」
「んー、今は何かしながら覗いている感じっぽいね。ちょっと練習期間はもらおうかなぁ。待ってて」
トリツィアは何処までも楽しそうに微笑む。
女神様に歌を披露するとなると基本的に誰もが恐れ多いと、そう思うものだ。だけどトリツィアにとってはただの友人である女神様に歌をお披露目する場でしかないのであった。
(女神様、しばらく練習してからちゃんと後でお披露目でもいいですか? 練習をしたものを女神様に見せる方がいいかなって)
『ふふっ、もちろん、構わないわ。良かったら精霊たちも呼びましょう。流石にアニソンは人前で歌うと変な感じになってしまうものね!』
女神様の声は大変弾んでいる。
よっぽどトリツィアとオノファノのデュエットを見たくて仕方がないのだろう。
(それはありですね。それにしてもアニソンを歌うと変な感じになるんですか?)
『ええ。だってアニソンってこの世界にとっては不思議で、あまりなじみのないものでしょう。そういうね、他にとってはなじみのないものは異端認定されてしまう可能性は高いのよ。本当に馬鹿らしいことだけどね。だからトリツィアみたいに、簡単に私が異世界出身なこととかも含めて受け入れる子は珍しいのよ?』
くすくすと笑う、女神様の声にトリツィアは不思議そうな顔をする。
(なじみがないから受け入れないって極端な思考ですよね。女神様が異世界出身なのとか、アニソンってそんなに皆嫌がります?)
『まぁ、私はそういう点を含めたら皆が想像するような女神とは異なるでしょう? 人々は神と名がつく者に対しての理想が高すぎるのよ。そして理想と異なれば、神として相応しくないなんてそういうことを言う人も世の中にはいるの』
(神様相手に神様に相応しくないと、そんな風に言う人いるんですか? 凄いですね。私は正直、女神様のことを信仰しているからというのもあるけれど、ただ単に女神様のこと好きですからね。好きな相手だったらどういう変わった一面があってもそれは面白いなって思うだけですしね)
トリツィアがそんなことを女神様に言うと、やっぱり楽しそうな声を女神様はあげる。
『本当にトリツィアらしい返答だわ。ふふっ、オノファノも同じ感じかしらね? それならその方が嬉しいわ』
(女神様はオノファノとも仲良くしたいです?)
『ええ。だってきっとオノファノはトリツィアとこれから長い間一緒に居ることになるのかなって想像しているの。それなら私はトリツィアの友人として仲良くはしたいわよ』
(んー? 私とオノファノ、一緒にいるのですか?)
『そのあたりはトリツィアとオノファノ次第ね。私は二人がずっと仲良くしてもらえたら嬉しいわ。歌の練習でももっと仲が深まるだろうし、いいことだと思っているのよ』
よく分かっていないトリツィアに対して、女神様は相変わらずただただ笑っている。
トリツィアは首をかしげている。
(そうなんですね。まぁ、よく分からないですけど私はオノファノがよっぽどのことをしない限りは仲が悪くはならないと思いますよ。ただオノファノが変なことしたら話し合いします! とりあえず女神様も忙しいと思いますから、また歌の練習終わったら声かけますねー)
『ええ。楽しみにしているわ』
さて、そういう会話を終えた後、オノファノに向かって女神様と話した内容について説明するのであった。
それからトリツィアとオノファノは二人で時折アニソンの練習をすることになった。……中々奇抜な歌なので当然大神殿内でもそれなりに噂になっていた。
神官長であるイドブには「おかしな歌を歌っていると聞いたが……」と事情聴取をされていた。
彼からしてみればトリツィア達がそのような変なことをすることはいつもの事ではあるが、流石に連日変な声が聞こえてくればそれだけ騒ぎにはなるのは当然だった。
「女神様から聞いたっては謂わない方がいいかな?」
「それは言わない方がいいんじゃないか? また変なことになりそうだし」
「うん。まぁ、それはそうか」
トリツィアはオノファノに言われた言葉に頷き、その歌の出所については周りに言うことはなかった。
――その後、トリツィアとオノファノが女神様や精霊たちに歌を披露する日はしばらくしてやってきた。




