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大神殿の上級巫女、昔を回顧する ①

 ドーマ大神殿は、由緒正しい大神殿である。

 そのドーマ大神殿で、現在最も有名な上級巫女の名は、レッティという。



 金色の煌めく髪は、何処までも艶やかである。そしてその太陽のように明るいオレンジ色の瞳は、生きた宝石のようだと言われている。

 ――その出自は、栄えある公爵家である。


 このムッタイア王国の中でも、強大な力を持つと言われている権力者の出。

 そんな正真正銘の大貴族で、現在王族がいないドーマ大神殿では一番の権力者であり、正真正銘のお姫様と呼べるような存在である。




 さて、そんな存在であるレッティは、目の前の光景を遠い目で見ている。




 レッティの視界には、走り回っているトリツィアとオノファノの姿が見える。どうしてドーマ大神殿で下級巫女として勤めているトリツィアが走り回る必要があるのかレッティには分からない。そもそもトリツィアの考えていることを、理解出来ることは誰にも出来ないだろう。

 そして物凄いスピードで走り回るトリツィアについていけているオノファノもレッティの目からしてみれば中々おかしい。




「……ねぇ、どうしてトリツィアさんは走り回っているの?」

「レッティ様、わたくしどもにもわかりませんわ。でも怒っているわけではなさそうですし、放っておいていいのでは?」

「そうね。とても楽しそうだわ。まるではしゃいでいる子供のようだわ」



 レッティは同じく上級巫女である少女とそんな会話を交わす。



 視界に映っているトリツィアは楽しそうに笑い声をあげて走り回っている。何らかの目的があってそういうことをしているわけでもなさそうに見える。



(トリツィアさんは、何も考えずに突拍子もない行動をすることがあるわ。今回もそうなのかしら。それにしても……大神殿の敷地内とはいえ、これだけ色んな場所を走り回っているなんて……なるべくやめてほしいわ。とはいっても、トリツィアさんを止めるのも大変ですし……)



 レッティはこの大神殿で上級巫女として過ごして長い。

 トリツィアのこともよく知っていて、その性格も言動も分かっている。すべてを理解尽くすことは出来ていないが、それなりに理解は出来ていると自負している。


(トリツィアさんは機嫌を損ねているよりも、にこにこと笑っている時の方がいいものね。誰か来訪者がいるのならばともかく、此処には関係者しかいないから、トリツィアさんが満足するまで走らせて置こうかしら)



 ――なんだかんだトリツィアの言動にすっかり慣れ切ってしまっていることがうかがえる。

 少しぐらいトリツィアが突拍子のないことをしても、変な行動を起こしていても、特に動じることはない。


 今までも何かやらかしそうになった時も、平然とした態度で対応してきたのがレッティである。



 つい先日の侯爵子息がトリツィアに手を出そうとして、一悶着あった時も上手くおさめたのはレッティである。レッティはトリツィアがどういう存在か分かっている。トリツィアはまさに触らぬ神にたたりなしである。下手に手を出さない方がいい。




 しばらくしたら、トリツィアとオノファノは止まった。すっきりした様子で、水をごくごくと飲んでいる様子が見える。



 そんなトリツィアとオノファノにレッティは近づく。





「――トリツィアさん、オノファノさん」

「あ、レッティ様! こんにちは!」

「こんにちは、トリツィアさん。何をやっていたのですか?」

「運動です! 運動不足は健康に悪いって話なので、走ろうかなーって。オノファノは道連れです」

「そう……」



 トリツィアは肥満体形でもなく、よく働きよく食べてよく寝てととても健康的に生きている。まったく不健康ではない。

 正直普段から身体を動かしているトリツィアはそんな風に運動をする必要はないようにレッティからは見える。



 とはいえ、トリツィアはそんなことは関係なしに、ただ動き回りたいと思っただけだろう。





(本当にトリツィアさんは、昔から変わらない。昔からこうで、私は出会ったばかりの頃はトリツィアさんの言動にそれはもう驚いたのを覚えている。……昔の私からしてみれば、こんな風にトリツィアさんのことを受け入れるとも思っていなかった。でも今ではすっかり私はトリツィアさんに慣れてしまってる)



 そんなことを思うと思わずふふっと声が漏れている。





「レッティ様、どうしたのですか?」

「昔を思い出しただけですわ。トリツィアさん、オノファノさん、元気に走り回るのも結構ですが、きちんと責務もきちんと行ってくださいね」

「はーい。よし、オノファノ、行くよ!」

「はいはい」



 そしてレッティの言葉にトリツィアは頷き、オノファノを連れてその場から去っていくのであった。



 その様子を見届けて、レッティも傍仕えの騎士たちを連れて自室へと戻っていく。





 

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