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下級巫女です!!  作者: 池中織奈


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加護持ち王子と、下級巫女 ④





「お前、武器は?」

「要らないですよー」



 大神殿の中庭。

 普段からトリツィアとオノファノがよく模擬戦をしている場所だ。


 そこでトリツィアはゲリーノと向かい合っている。これから戦いが始まるわけだが、トリツィアは素手である。対峙している側からしてみれば舐められていると感じてしまうかもしれないが、トリツィアにとっては普通のことである。


 しかしゲリーノからしてみれば、眉を顰めるには十分なことであると言える。

 


「要らない?」

「はい。王子様は別に武器を持っても構わないですよー。私は拳で戦う方が好きなので」




 トリツィアはにっこりとほほ笑んでそう告げる。

 その目は何処までも本気だと、ゲリーノにもよく分かった。






「後悔はするなよ」

「しませんよー。王子様も手加減は全く要りませんよ」



 彼女は挑発するようにそう言うと、ゲリーノは少し不快そうな顔をする。



 幾ら女神から気に入られており、本人が問題ないと言っていても所詮加護持ちとそれ以外の差は大きいとゲリーノは思っているのだろう。





 ゲリーノは長剣を引き抜く。

 それは模擬剣ではなく、本物の長剣である。

 それを向けられても、トリツィアは表情一つ変えない。



 そんな様子のトリツィアに、ゲリーノは切りかかる。素早く近づき、そのまま振り下ろす。トリツィアは軽い調子で避けていく。



 何度も何度も――トリツィアはその攻撃を避け、涼しい顔をしている。





「なぜ、当たらない……!」

「王子様、力任せな感じですねー。オノファノとの模擬戦の方がもっとワクワクするかも」

「……くそっ、舐めるな!」



 トリツィアは加護持ちと呼ばれる存在は、どれだけ強いのだろうかと楽しみだった。

 確かにトリツィアの目には、彼が神の加護を持っているのを確認出来る。神の力を纏うゲリーノに、一般人は威圧されてしまうことだろう。だけど彼女は巫女としての力を持ち合わせているのもあり、その影響を受け付けない。




 ゲリーノが魔力を込めて、剣を振るう。トリツィアは当然、それを避けたわけだが……その結果、背後の大神殿を覆う壁が破壊された。悲鳴のようなものも聞こえる。

 トリツィアはそれを見て、不快そうな顔をする。




「王子様、周りを巻き込んじゃ駄目ですよ! ちょっと怪我した人たちを治してきます」



 トリツィアの言葉を聞いても、ゲリーノは止まらない。トリツィアにやられっぱなしであることを認められないのだろう。

 そのままトリツィアの息の根を止めようとばかりに切りかかってくる。




「そんな風に周りの話を聞かないのは駄目ですよー? 一回、お休みなさーい」


 トリツィアはそう告げると、向かってくるゲリーノにそのまま突っ込んでいく。長剣を手にしたゲリーノに、素手のまま向かっていく姿はなんとも危なっかしいものだ。



 そして振り下ろされた長剣を、トリツィアは思いっきり右手ではじいた。ゲリーノの武器はそのまま、宙へと飛んでいく。

 驚いた様子を見せるゲリーノに、トリツィアはそのまま蹴りつけた。

 勢いのまま蹴られたゲリーノは、そのまま吹き飛んでいく。



 それでも身体は丈夫なのか、まだ意識はあるらしい。

 吹き飛びながらも態勢を整えて、トリツィアに飛び掛かろうとしている。その動きを見逃すような彼女ではない。



 そのまま再度蹴りつけ、殴る。

 彼女の行う攻撃はそんな単調なものだけだ。でもそれだけで事は足りるのである。








「うぐっ」



 うめき声をあげているゲリーノは、トリツィアから繰り出された度重なる攻撃に意識を失った。




「よしっ、後は……」



 彼女は意識を失ったゲリーノを縄で縛り付けると、それを念のため結界で覆っておく。起きた後に、また同じように暴れ出されても困るのだ。




 彼女はそれを終えると、怪我をした人々の治療を行った。

 幸いにも死人は今の所出ていない。ゲリーノも頭に血が上って周りのことを見ていられない状況だったとはいえ、関係のない人々の命を奪うような真似はしないように制御はしていたのだろう。






「トリツィア、何をやっている!?」

「神官長、ちょっと王子様と遊んだだけですよー」

「王子様?」

「加護持ち王子様です。もしかして、正式な来訪じゃなくて忍び込んでました?」




 トリツィアが不思議そうな顔をすると、神官長はようやくゲリーノに気づいたらしい。

 そしてトリツィアの言った言葉を理解したらしい神官長は顔を青ざめさせる。




「ななななっ、なぜここにいるのだ?」

「私に興味津々だったらしいです。戦いました! でも周りを巻き込みだしたので、とりあえず動けないようにしておきました。誰も死んでないですから、そこは安心しといてください!」



 トリツィアはこんな状況でもマイペースで、元気である。

 いつも通りの様子のトリツィアを見て、神官長は表情を呆れたように変える。




「分かった……。起きた後の対応には私も混ざるから、下手な対応はしないでくれ……」



 そして言い聞かせるようにトリツィアにそういうのだった。



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