戦争の始まりと、勝敗と ②
神というものは、人の世に時折関わる。
お気に入りが居れば、その存在に力を貸すこともある。
勇者に対して、力を与えるのも――、神々が人を気に入っているからに他ならない。
勇者以外にも神に気に入られている者達というのは、少なからず存在している。その加護持ちである者に関しては基本的に世界に名を轟かせる者である。
(加護かぁ。結局それって神から与えられている者だから、加護を無くされたらただの人になるようなそういうものだよね。急に力がなくなったら大変だろうなぁ)
『大変だと思うわよ。ただの人になってしまった人間は、そもそも加護を没収されるだけの何かを起こしてしまったら周りの目もその分厳しくなるわ』
(加護を没収されるまでの間に好き勝手していた分、しっぺ返しを食らう感じですかね)
『そうよ。それで後から反省しても結局加護は戻ってこないというのがあるのよ。加護を失った人には何をしてもいいと勘違いしてしまう人もいて、加護に纏わる混乱って大きいわ』
(そうなんですねー。正直、加護があろうがなかろうが、そんな風に騒ぐことって何もないと思うんですけど)
『それが言えるのはトリツィアだからよ。基本的に人々にとって、加護持ちというのは特別だわ。だからそれにまつわる騒動って多いのよ。そういういざこざも神界からよく見ているから、あんまり加護をばらまくのはやめようという話にはなっているわ』
トリツィアは女神様からそんな風に言われるが、彼女はそういう考え方はあまり理解出来ない。
彼女は何処までも特別で、強い力を持つ巫女である。彼女自身は加護持ちである存在をそこまで特別に見ることはない。加護があろうがあるまいが、その人はその人でしかなく、それで騒動が起こると言われてもぴんとこないのであろう。
女神様はトリツィアと話していて、トリツィアのそんな思考を把握しているからかくすくすと笑っている。
『本当にトリツィアはトリツィアよね。私は貴方がそんな風に変わらずにいてくれていることが嬉しいわ。何があったとしてもトリツィアは変わらなくて、そういう一面を私はとても好ましく思っているの』
(ありがとうございます。女神様は誰かに加護とか与えてます?)
『私はしばらくは誰にも加護を与えていないわね。私の加護は結構、レアなのよ? トリツィアが望むならば貴方には喜んで加護を与えるけれど』
(んー。大丈夫です! 加護とかなくてもやっていけますしねー。そういうのは欲しい人にあげたらいいと思います)
『なら、そうするわ』
女神様から幾らでも加護を与えると言われても、トリツィアはいつも通りである。
彼女はとても信仰心が深く、女神様のことを慕っている。とはいえ、彼女達の関係は友達である。信仰対象であり、友達なのだ。
女神であるソーニミアは、人々に信仰されている。この国で最も信仰されている偉大な女神。
――その女神とこれだけ親し気に会話を交わし、加護を与えても構わないと言われているのに受け取らない。
トリツィアは本当に変わった巫女である。
(女神様が誰かを気に入って、加護を与えるならそのこと一緒に仲良くしたいなって思います。その子が女の子なら一緒に女子会したいですし、男の子なら模擬戦とか楽しむのもありかなって思います)
『それも楽しそうね。でも流石にトリツィアほどの力を持っていないと、一緒に女子会とかは難しいけれど』
(あれですよねー。私がおばあちゃんとかになった頃に、そういう人が現れても面白いかもです。それだけ年齢を重ねた後だと、私の考え方も変わってますかねー)
『トリツィアは可愛いおばあさんになると思うわ。なんだか想像するだけでワクワクするわね。ふふっ、その頃も仲良くしてね、トリツィア』
(もちろんですよ。女神様が仲良くしてくれるというのなら、幾らでも。少なくとも私から女神様と関わらない選択肢はありえませんからね)
トリツィアがそう告げると、女神様はおかしそうに楽しそうに笑っている。
『貴方のその一生が終わるまで、私はずっと見守るし、友達ではいるわ』
(なんだか一生涯、ずっと女神様と喋れると思うと嬉しいですね!)
トリツィアはにこにこしながら、下級巫女としての雑用をこなしている。その間に女神様は、トリツィアの心に直接話しかけているのである。
さて、トリツィアの日々は諍いの種がまかれていようとも変わらない。ただただいつも通りに、女神様と楽しく会話を交わしながら、巫女としての日々を過ごしているだけだ。
そんな中で、その諍いの種が……戦争へと繋がっていった。
トリツィアは戦争というものを経験したことはない。魔物や盗賊と言ったものとは戦ったことはあるが、戦争と呼ばれるものはまた違うだろう。
トリツィアの住むムッタイア王国は、他国との戦争をはじめ、その影響は少なからず大神殿にも出ていた。




