下級巫女は、久しぶりに家族に会う。⑫
「その海賊たち、どうしたの?」
「全部国に引き渡して、責任を持って処罰してもらう形になったよ。一部は潰す過程で殺すことになったみたいだけど」
「そうなんだー」
「うん。命乞いをしてくる海賊も結構いたけれど、流石に受け入れるには好き勝手しすぎていたからね。まだ僕らの下で無給で働くとかで許される程度の罪だったならともかく……彼らは略奪の際に相手を殺したりをよく繰り返していたみたいだから。捕らえた人を売り払ったりもね」
「売られた人はどうにか出来た?」
奴隷に落ちる者というのはさまざまである。借金を負って、その負債を返済するために奴隷という立場に落ちてしまった人。そういう人たちに関しては自分を身請けするだけのお金を稼げれば基本的に開放される。
正規の手続きで奴隷に落ちた者に関しては、そこまで悲惨な目に合っているわけではない。
ただルクルィアが遭遇したような……自分の意思ではなく、無理やり売り払われた奴隷に関してはそうでないと言えるだろう。まぁ、国によって奴隷制度の決まりも異なるので、ルクルィアが訪れた国の制度がどうなっているかまではトリツィアも知らないが。
「情報網を使って、売られた先までは見つけたりは出来たけれど……その後、どうしたかはその国次第かな」
「そっかぁ。早くその人達が解放されるといいね」
「うん。それはそう思う。正当な手続きで、きちんと解放されていればいいのだけど……。ただ世の中には悪い人もいるからね。無理やり奴隷にされた人をそのままにする人も居そう」
ルクルィアはそんなことを言いながら、少し嫌そうな顔をしている。
様々な場所を旅しているからこそ、トリツィア以上に色んな人々と遭遇している。その中で信じられないほどの悪人に遭遇したこともあるだろう。
だからこそ、全てを自分の手でどうにかするという夢見がちな思考を彼はしていない。あくまでルクルィアの思考は現実的で、その行動は自分の手に負える範囲でだけである。
「そういう人も処罰されればいいのにねー」
「うん。そう思う」
トリツィアの言葉にルクルィアは頷く。
「一応、またあの国を訪れることがあればどうなったか確認ぐらいはしておこうとは思っているよ」
「そっか。ルクルィアはいい子だね」
「姉さん、急に頭を撫でまわさないでよ!」
急にトリツィアは弟の頭を撫で始める。ルクルィアは文句を言うものの、されるがままである。
「姉弟仲が良いのはとてもいいことねぇ」
「トリツィアもルクルィアもおしゃべりはいいが、肉がなくなるぞ?」
両親からそう声をかけられて、トリツィアとルクルィアは食事をすることに集中するのであった。
――そうやって、楽しい時間はあっという間に過ぎていく。
ルクルィア達はしばらくの間はその街に滞在した。その間に『ウテナ』との交易も彼らは成功させていた。シャルジュ達からしてみればトリツィアの家族というだけでも交流を深める理由にはなる。
『ウテナ』の面々のトリツィアに心酔している様子を見て、ルクルィアは呆れた様子を見せていた。
「姉さん信者になってるじゃん。何したの?」
「ちょっと助けただけだよー」
「ふぅん。これだけ心酔するのだから、彼らにとってよっぽどのことをやったんだろうね? でもまぁ、姉さんの味方がどんどん増えているのは僕にとっては嬉しいよ。姉さんは、色々敵を作りやすいから」
「そう?」
「うん。だって姉さんは自由だから。これだけ好きなように生きていたら、姉さんをどうにかしたい人も多いだろうから」
ルクルィアは心から嬉しそうに笑っている。
姉を慕っている弟からしてみれば、彼女が孤独ではなく、寧ろどんどん親しい存在を増やしていることにほっとしているのだろう。
圧倒的な強さを持つということは、一歩間違えれば独りぼっちになり得る。その強さを忌避され、怖れられることだって十分に考えられる。
ルクルィアは、例えばトリツィアが人類の敵のような立場になったとしても味方をするつもりである。他でもない、家族だから――。
そういうもしかしたら起こりうるかもしれない状況になった時の事を考えると、そういう味方は沢山いた方がいいのだ。
ルクルィアの感じているような気持ちは、両親も同様に感じているものである。彼らは普通とは異なる子供達でも、きちんと愛情を持って接している。トリツィアに頼りきりではなく、彼らは自分の力で生きている。
――圧倒的な力を持つ家族が居れば、それを頼りきりにして自堕落になる例も多々あるのである。
でも彼らはそうではない。だからこそ、トリツィアと上手く家族づきあいが出来ているのかもしれない。
「じゃあ、またね。姉さん」
「トリツィア、またしばらくしたら来るからね?」
「手紙を寄越すんだぞ」
そして彼らはしばらくトリツィアと過ごした後、また旅立っていった。
「うん。またね」
トリツィアも家族を笑顔で送り出すのであった。




