下級巫女は、久しぶりに家族に会う。⑪
「お肉パーティー、楽しい!!」
トリツィアはにこにこ笑みをこぼしながら、大神殿の庭でお肉を焼いている。
シャルジュの所で狩ったドラゴンと、襲い掛かってきた魔物のお肉だ。
ちなみに家族で過ごしているわけだが、希望する巫女や騎士達にもお肉は食べてもらっている。というのも、トリツィアの両親が娘がお世話になっているからと追加で食材を色々手配してくれていたのである。
トリツィアが家族のために狩ってきたお肉に関しては、基本的に家族たちで食べている。
「姉さん、この肉、珍しそうだね」
「うん。珍しいお肉を食べさせたいなって思ったから、狩ってきたの! ルクルィア達は世界中を旅しているから、皆が食べたことのないお肉ってどんなのだろうって考えて狩ってきたんだよ」
にこにこしながらそう答えるトリツィア。ルクルィアはどうせ普通のお肉ではないのだろうなと思っている様子である。
「僕らも珍しい食べ物は散々食べているし、珍しい光景も沢山見ているけれど……なんか姉さんの方がそういう経験沢山してそうだな」
「そんなことはないと思うよ? 私はずっとここにいるし、ルクルィア達の方がずっと沢山のものを見てると思うけど?」
トリツィアは平然とそう告げる。おそらく本気でそう思っているのだろう。
「姉さんは本当に姉さんだよね。……姉さんを驚かせるような話をしたいけれど、何なら驚いてくれる?」
「んー。面と向かってそう聞かれても分からない」
「じゃあ、そうだな……。姉さんは海賊とは流石に遭遇したことないよね?」
「ないよー。海賊って海に出る盗賊みたいなのだよね? 私は海に出たことないしなぁ」
「船に乗っている最中に襲われること、たまにあるんだよ。特に僕らは商人としてそれなりに賊たちにも知られているからね」
「結構狙われているの?」
「一部では僕らのこと知っている人たち増えてきているんだよ。その分、守ってくれる人も増えているけれど」
商人としてそれなりに名が広まり出せば、それはそれで狙われる理由になってしまう。富があるところを賊は狙うのだ。それにルクルィア達は様々な場所に足を踏み入れているからこそ手にしている人脈がある。
もし捕らえられてしまうなんてことがあれば、その人脈も利用されてしまう可能性だってあるだろう。
「もし大変になったら、連絡してね?」
「うん。まぁ、本当に窮地になっていたら連絡なんて出来ないかもしれないけれど」
「手紙がしばらく届かなくなったら、私は助けに行くよ!!」
トリツィアはルクルィアの言葉に元気よく答える。
基本的に家族からの手紙は頻繁に来ている。どこに居ようが、トリツィアに連絡はしてくれている。そしてトリツィアからの手紙もきちんと届いている。
ルクルィア達は旅をしており、一か所には留まらない。だからこそ、手紙の紛失でも普通なら起こりそうだが……それは全くといっていいほどない。
トリツィアが大神殿に入ったばかりの頃はあったものの……、今ではすっかりそういう紛失事故はない。
それはルクルィア達が味方にした人々の力を借りて、物流網を発達させた結果であると言えよう。
もし彼らの身に何かがあれば、手紙が届かなくなるだろう。それでいておそらく各地にいるルクルィア達のことを慕っている人々が動き出すことは目に見えている。なので、そもそもトリツィアが動かなくてもどうにかなるかもしれない。
それでもトリツィアにとってはルクルィアたちは大切な家族なので、何かあれば真っ先に動くことだろう。
「それでまぁ、その僕らの船を襲った海賊たちって結構大規模だったんだよね。百人ぐらいの海賊集団で、あの辺の人たちのことを困らせていたみたいで」
「へぇ。結構大規模」
「うん。本当に対応しても次から次へとやってくるからさ。キリがなくて。向こうも僕らのような存在から荷物を奪えないのに自棄になってたみたいで、諦めなくて。ムカついちゃったから、潰してもらった」
「へぇー」
彼女はそうなんだとでもいう風に軽く聞いているが、ルクルィアの言っていることは大事である。長年の間、その海域を脅かしていた海賊を簡単につぶしてもらったなどと笑顔で言ってのける十三歳。そういうことを簡単に出来る部分は流石トリツィアの弟であると言えるだろう。
彼の性格は少なからず、産まれた時からトリツィアという存在を見続けたからこそ形成されているのだから。
普通ではない姉が巫女として大神殿に入るまでの間、ずっと見続けた。そして離れている今も、姉の凄まじい行動を後から方向で聞いているのだ。
「そういうの潰したら、報酬結構もらえた?」
「うん。海賊たちの手で亡くなった人多かったみたいだからね。懸賞金もかけられていたし。騎士達の対応、僕がやったんだけど最初は戸惑われてたなぁ」
「お母さんたちよりルクルィアの方がそういう交渉得意だもんね」
ルクルィアは交渉術に優れている。それが分かっているからといって、捕まえた海賊たちの対応をルクルィアにやらせているあたり、彼らの両親も肝が据わっているというか、少し変である。




