下級巫女は、久しぶりに家族に会う。⑦
「二人とも私に敵わないって服従したからペットにしたの。女神様にもきちんと許可をもらっているから何の心配もいらないよー」
「……うん、本当に姉さんは姉さんで変わらないよね。そういう存在をペットにしてもいつも通りすぎる」
「ルクルィアは私に変わっててほしかったの?」
「いや、前と変わらない姉さんで安心している。世の中には何かがきっかけで性格が変わる人もいるからさ」
ルクルィアは呆れたようにトリツィアのことを見る。
トリツィアという存在は本当に昔から変わらない。そのことがルクルィアには楽しくて仕方がない。
「ふぅん。よくわからないけれど、ルクルィアが楽しそうなら良かった! 良かったら皆、私のペットに会ってね。ちゃんと躾けをしているから噛んだりとかしないよ! 私の家族に何かするようなら躾直すし、問題ないからね」
トリツィアは魔王と魔神のことを簡単に躾直すなどと言って笑っている。
何気なく告げる言葉の一つ一つがおかしい。その一つを取っても、英雄と呼ばれるような所業を彼女は簡単にやってのける。
「是非あわせて。後は他には何か変わったことある? 弟として姉さんが世話になっている人にはちゃんと挨拶をしたいんだけど」
「他に変わったこと? 何があるっけ??」
トリツィアはルクルィアからの言葉に不思議そうな顔を下かと思えば、オノファノの方を見る。
「『ウテナ』のこととか、あとはレッティ様とさらに仲良くなったことと、巫女姫様のこと、それにヒフリーのこととか、色々あるだろう」
それらのことは、トリツィアにとって家族に話すほどのことであるのと思っていなかったのだろう。
呆れたように笑いながらオノファノは口にする。短い間でもトリツィアは色んなことをやらかしている。特にこの一年半は魔王や魔神のこともあり、以前よりもトリツィアの周りは劇的に変わったと言えるだろう。
「トリツィア、『ウテナ』と交流を持つようになったの?」
「あの旅芸人の一座と? 商売をしたいから、縁を取り持ってくれないか?」
トリツィアの両親たちもオノファノが口にした単語の中で聞きたいことは様々あるはずだが、一番食いついたのは『ウテナ』のことであった。
旅芸人の一座である『ウテナ』はそれはもう有名で、各国が取り込みたがっている存在である。そういう特別な存在だからこそ、『ウテナ』相手に商売をしたがる存在は多い。とはいえ、特定の相手と交流を持たないとされているのが『ウテナ』だ。
……今ではすっかりトリツィアという少女に心酔し、彼女と特別に交流を深めているわけだが。
「『ウテナ』と? お父さんたちが交流を持ちたいなら紹介はいつでもできるけど、『ウテナ』と交流を持つと狙われる確率増えるかもよ?」
トリツィアは家族を大切に思っているため、『ウテナ』と交流を持つことで危険な目に合うのではないかと心配している様子だ。
人間離れした力を持ち合わせていても、トリツィアはまだ十五歳の少女である。家族のことを思いやるという当たり前の感情を持っている。
「問題ないわ。そもそも私達はそれなりに今だって危険だもの。でもルクルィアが私たちを守ってくれる存在を増やしているもの」
「また増えたの?」
「そうよ。ルクルィアは本当に色んな人と仲良くなるのが得意だもの」
母親がにこにこと笑いながらそういうので、トリツィアはほっとする。
トリツィアの弟であるルクルィアは、人心掌握術に長けている。まだ十三歳の彼であるが着実に味方を増やし続けているのである。……トリツィアのように戦う力はほとんどない。やれることと言えば、道具などを使って応戦するぐらいだ。しかしルクルィアを守ろうとする人々の数はとてつもなく多いのである。
トリツィアはその数を正確に把握は出来ていない。というか、両親でさえもその全貌は把握していないのではないかと思われる。
「なら、大丈夫か」
トリツィアも家族のことを信頼している。
彼らが『ウテナ』と交流を持っても問題がないというのならば、本当に何一つ問題はないのだ。それを理解しているからこそ、笑っている。
一人娘は下級巫女とは名ばかりに、圧倒的な巫女としての力を持ち合わせており、様々なことをやらかしている。
一人息子は無邪気な少年にしか見えないのに、出会った人を味方につけていき、その数は把握しきれないほどになっている。
そんな二人の子供を簡単に受け入れているあたり、彼らの両親も中々普通ではない。
「シャルジュは今いないけど、お父さんたちがいるうちに来るだろうからその時に紹介するね!」
「ええ。よろしく頼むわ」
トリツィアの言葉に母親は笑い、これから商売を広げることが出来るからと嬉しそうである。
さて、そうやってしばらく会話を交わして、和気あいあいとした後――、彼らはトリツィアのペットを見に行くことになった。
それが魔王と魔神であると聞いているにもかかわらず、「トリツィアのペット楽しみ」と笑っている両親は流石彼女の両親であると言える。




