下級巫女は、久しぶりに家族に会う。②
「ふんふんふ~ん」
トリツィアはご機嫌な様子で、魔物にとびかかっている。
オノファノが許可を取ってくれたため、家族に渡す美味しいお肉を狩りにきている。
毎回、トリツィアは家族が来るたびにそうやって狩ったものなどを家族に渡すのだ。
目の前にいる大きな魔物の角を掴むと、そのまま放り投げ、地面にたたきつける。
大きな音と、魔物の悲鳴にもにた鳴き声がその場に響き渡る。
「このお肉美味しいんだよなぁ」
にこにこしながら、満足気なトリツィアはずるずるとそのお肉を引きずっている。
そして近くで同じく魔物を狩っているオノファノの方へと近づく。
「あ、オノファノ。その鳥のお肉も美味しいからあんまり痛めつけすぎないようにね」
「ああ」
彼女の行動にすっかり慣れ切っているオノファノは、巫女がお肉のために魔物を狩っているという状況を見ても全く動じることはない。
(保存食に出来そうなお肉も狩っておきたいなぁ。そしたら商品にも出来るだろうし)
彼女の家族は商人として活躍しているので、その商品にもなるものがいいと考えているのである。
(お母さんたちは面白そうな商品、色々持ってきてくれるだろうし。良い物々交換出来るもんね。女神様を楽しませるようなものも色々手に入れられたらいいなぁ)
彼女が肉を差し出し、家族は商品を渡してくれる。ただ片方が与えられるだけの関係ではなく、物々交換を行う関係性だ。
女神様が楽しんでくれるような、面白い商品が手に入ればとそう思う。家族が来るだけでも嬉しいことであるし、面白い商品も入手できるのでトリツィアにとっては家族の来訪はとても喜ばしいことである。
狩った魔物は、大神殿へ持ち帰り、解体する。
それを何度も繰り返す。神官長や他の巫女たちもそのお肉を欲しがったので、一部は分け与えたり売買する。
それを何度も何度も繰り返して、家族に渡すためのお肉を貯めていく。
「近場だと良い感じのお肉あんまりないかなぁ」
「いや、結構良い肉が手に入っていると思うが」
「折角久しぶりに来るからこう……もっと貴重なものとか渡したくない? 皆をびっくりさせるようなものを手に入れられたらきっともっと楽しくなるもん」
彼女は無邪気に笑ってそんなことを言う。
純粋に家族がやってくることを喜んでいるトリツィアは可愛らしく、オノファノもその言葉を聞いて思わず笑みを浮かべている。
「どんなものだっておばさんたちはトリツィアが狩ったものだったら喜ぶと思うけどな」
「うん。それはそう。でも折角だから私も成長したんだよーって分かった方がよくない?」
「それなら何を狩りたいんだ?」
「ドラゴンとか」
「そう簡単には出てこないと思うが」
「そうなんだよねー。なんか呼び出したり出来ないかな? マオとジンに聞いてみる」
魔王と魔神のことをそうやって使おうとしているトリツィアは、やはり中々変わっていると言えるだろう。
珍しく、美味しいお肉。
それを狩りたくてたまらないトリツィアは、さっそくマオとジンの元へと向かう。
大人しくマオとジンはペット生活を謳歌している。彼らはトリツィアとオノファノのいうことを良く聞き、されるがままである。とはいえ、彼らは魔王や魔神と呼ばれるような恐ろしい存在であることは変わりがない。
しかし彼女からしてみれば、あくまでその二匹はペットでしかない。
「マオ、ジン、美味しいお肉の魔物、呼べない?」
「ご主人様よ、突然、何を言い出すのだ?」
「唐突過ぎぬか?」
彼女の言葉にマオとジンはそれぞれ、突然何を言い出すのだとでもいう風に呆れた言葉をかける。
「家族が遊びに来るんだ。だからね、美味しいお肉を狩っておきたいなぁって」
彼女の言葉に益々驚いた顔をするマオとジン。正直、家族が来るから肉を狩るという思考がよく分からないのだろう。
「家族……? ご主人様は本当に人から産まれたのか?」
「マオ、何を聞いているの? 私、人間だから普通に親はいるよ?」
「……ご主人様は本当に人か疑うレベルの存在なのだ。だから我は、本当に親がいるのかと驚いたのだ」
「そっかぁ。まぁ。とりあえず私の両親と弟が来るんだよー」
マオはその言葉を聞きながら、「ご主人様には弟までいるのか」と戦慄している。きっとトリツィアと似たような存在がもう一人いるのを想像しているのだろう。
「……主の弟も、主と同じようなものか?」
ジンもマオと同じことを気になったらしく、何とも言えない様子で問いかける。
「ん? 同じようなのって?」
「我らをどうにかするだけの力を持ち合わせているのかである」
「いや? 弟自身はそれは出来ないと思うよ。だけど、私の家族は慕われているから何かしようとしたら周りが怒るよ? 私も許さないよ?」
「な、なにもする気はない! ただそれだけの力を持つのかと気になっただけだ」
「ふぅん。それよりさっきの質問だけど、お肉呼べない?」
興味がなさそうに彼女はそういうと、マオとジンがこたえる。
「……よ、呼び出せぬわけではないが流石に肉としては差し出せぬ」
「我も同じくである。そもそもそのような呼び出しをすれば騒ぎになるが」
そう答えられて、トリツィアは残念そうに「そっかー」と笑った。




