下級巫女は、久しぶりに家族に会う。①
トリツィアは、圧倒的な力を持つ下級巫女である。
時に魔物を蹴散らし、魔王や魔神をペットにし、規格外と言うにふさわしい少女。
その愛らしい少女の見た目からは想像出来ないような力を持ち合わせている。
とはいえ、彼女も人の子である。
――当然、彼女にも血の繋がった家族というものがいる。
「オノファノ、美味しいお肉狩りにいこう!」
「急になんでそう思いいたった?」
「お母さんたちが久しぶりに神殿に寄るって!」
トリツィアはオノファノからの疑問に、にっこりと笑ってそう言った。
トリツィアは幼い頃から巫女として神殿に身を寄せているが、天涯孤独というわけでは決してない。
両親と、そして弟がいる。
「おばさんたち、今度は何処に行っていたんだ?」
「んー。何処って言ってたっけ。手紙に書いてあったけれど」
彼女の両親と弟は、商人として世界を飛び回っている。
元々トリツィアとオノファノの育った村に両親が長居していたのは、子育てのためであった。商人として様々な場所を訪れていた彼女の両親は、トリツィアの妊娠を機に村にしばらく住んでいた。
トリツィアは六歳の頃、巫女として大神殿に向かうことになった。
二歳年下の弟が同じ六歳になる頃、両親はまた旅商人として世界を周ることになった。
時折手紙が届く。
トリツィアも手紙の返事は書くが、一か所に留まらないことの多い家族にどれだけ手紙が正しく届いているかは不明である。
トリツィアは家族との仲は決して悪くない。寧ろ良い方であると言えるだろう。
そもそもの話、彼女は巫女としての力が発現する前から色々とおかしかった。普通ではない一面を持ち合わせた少女であったのだ。そういう彼女のことを、彼女の家族は決して恐れはしなかった。
彼女の楽観的な性格はそういう家族の元で育ったからともいえるだろう。
さて、彼女がお肉を狩りに行こうと目を輝かせているのは家族を出迎えるために美味しいお肉を準備したいなどと思っているからであった。
「トリツィア、肉を狩りに行きたいのは分かったからちょっと待て。神官長に許可もらってくるから」
「はーい」
元気よく答えるトリツィアを置いて、オノファノは神官長の元へと許可をもらいに行くのであった。
待っている間のトリツィアはご機嫌である。弟と会うのも久しぶりなので、どれぐらい成長しただろうか? と楽しみだったりもする。
『トリツィアの家族たちが来るのはいつぶりかしら?』
(んー。一年半ぐらいじゃない? どのくらい変わっているんだろうって楽しみ!!)
『私もトリツィアの家族がこちらに来るの楽しみだわ。トリツィアの家族たちのことはたまに眺めているけれど面白いもの』
(女神様は私の家族のことを見るのも好きですよね)
トリツィアと女神様は彼女の家族のことを楽し気に会話を交わしている。
女神様にとってもトリツィアの家族と言うのは下界の人々の中でも特別である。他でもない大切な友人であるトリツィアの家族であるだけではなく、その性格やあり方も面白いと思っているのだから。
『だって流石トリツィアの家族だと思えるぐらいに、面白いのだもの。トリツィアのように神の力を受け止めるような力は持たないけれど、十分に凄い子たちよね』
(そうですかー?)
『ええ。だってトリツィアの家族だからというだけで狙われたりもするでしょう? そういうのを全部きちんと対応しているじゃない』
(まぁ、それもそうですね。そもそもお母さんもお父さんも商人としてはそれなりに有名ですからね。世界中を旅していて、様々な人たちと交流持ってますし。私のこととか関係なしに、狙われたりしていますもんね)
トリツィアの家族は商人として世界中を周っている。その結果、様々なつながりがある。
その関係で何かしらの問題につながることもある。
――だけど、その問題があったとしてもそれで殺されたりすることなく商売が出来ているというだけでも凄いことなのである。
『そうよね。大商人と名を響かせているとかではないけれど、長い間商人として活躍しているのは素晴らしいことだものね。トリツィアの弟も結構良い性格をしているわよね』
(そうですねー。私もそう思います。私より年下なのに、頭の回転速いですしねー)
トリツィアはそんなことを女神様と話しながら、二つ下の弟のことを思い起こす。
トリツィアという特別で、凄まじい力を持っている姉がいるにもかかわらず擦れていないというか良い性格をしている。
そういう特別な親族がいれば自分が特別でないことに対して、劣等感を抱いたりと言うのもあり得るだろう。
でもそうではないのだ。
そういう性質の人間だからこそ、トリツィアも女神様もトリツィアの家族に好感を抱いているからであろう。
トリツィアは血の繋がりがあろうとも性格が好ましく思わなかったら、これだけ家族がやってくるのを楽しみにはしなかっただろう。




